第192話 十八歳だった その3

 すると……「神児君、司君、さっきから何してんのや」と優斗。

 

 思わず固まる俺と司。

 

 返事をしたくとも口の中のチーズケーキが邪魔して何も言えない。

 だってしょうがないじゃないか、おいしそうだったんだもの。

 

 見ると司は、慌てることなくゆっくりとチーズケーキを味わってから一言、「あっ、ばれてた?」といけしゃあしゃあと答える。


「バレないでか!?」思わず優斗からツッコミが入る。


 まあ、バレてしまってはしょうがない。俺達は優斗のテーブルに移動しようと、カップとケーキのお皿を持って立ち上がる。


 ああ、お冷も持って行かなきゃならないかと思いまごまごしていると、

「もういい、僕がそっち行く」と優斗がココアを持って俺たちのテーブルにやって来た。


「あ、どうも、お久しぶりです」と司。

「元気だった?」と俺。


 実は優斗としっかり話すのは、この前の祝勝会以来、十日ぶりだった。いや、クラブとかではあってたんだけれど、ほら、なんか気まずいじゃないですか。


「で、いつから気付いてた?」と司。

「家出た時からや」と優斗。


 えー、そんな最初っからバレてたのー?


「あっ、やっぱり」と司。


 なんだよ、お前、気付いてたのかよ。だったら俺がバカみたいじゃないか!!


 するといきなり「あっ、すいません。チーズケーキもう一つ追加で」と近くに通りかかったウエイトレスさんに声をかける司。


「お前も食べるだろ、ここのチーズケーキうまいぞ!」


 いやいや、先に優斗に聞いてから注文しろよ。お前。


 タイミングを外されてしまったのか優斗も、「じゃあ、いただくわ」と。

 


 クリスマスイブを明日に控え、おしゃれなカフェの中にはラブラブのカップルばっか。何が悲しうて男三人寄り集まってチーズケーキくわにゃあかんのだ。


「うん、うまいな、コレ。明日遥と来ようかな」と司。

「だったら俺も弥生と」と俺。


 だから俺達は今、一体何をやっているのだと……


 すると、優斗の携帯からメールの着信音が……


 携帯を開いてメールを見る優斗。


 そして「親父からや……」と一言だけ。


「そうか」と司。


 えっ、どういうこと、なに二人で通じ合ってるの。


 二人の顔をキョロキョロと見る俺。


 なんか俺だけ仲間外れみたいじゃないですかぁー!!


「どうせ、おかんから言われてるんやろ。様子見て来てくれって」

「ご名答」と残り少ないチーズケーキを大切そうに食べながら司。


「で、なんだって?」

「八王子駅に着いたって」


「そうか、じゃあ、俺、席、ちょっと移るわ」と隣の席に移動する司。

「えっ?あの?」


 するとカップを持ちながら司が、「お前、初対面の優斗の親父さんの横に座るのか?神児」と。


 あっ、そうですよね。はいはい。俺は司の言っていることを理解すると、いそいそと司と一緒に席を移動する。


 しばらくしてから、優斗の父親らしき人物が喫茶店の中に入って来た。


 辺りをキョロキョロと見回しているところを見るとどうやらそうらしい。


 年は四十台半ばくらいか?体格は思ったよりも小柄で、家族にDVしてたとは思えないような気の弱そうなおやじさんだった。 


 その人は、優斗と目が合うと、顔を引きつらせながらそれでも必死に笑顔を作ろうとしている。


 ふと優斗を見ると、今まで見たことが無い能面のような表情でその男の人を見つめていた。


 間違いない、この人が優斗のおやじさんだ。


 その男の人は、優斗の座っている席の前に立つと、


「久しぶりやなー、優斗、おっきくなったなー」と顔をくしゃくしゃにして言った。


 優斗はおやじさんとは一切目を合わそうとはせず、テーブルの一点を見つめながら、


「今更、何しに来たんや」と声を押し殺して言う。


 二人の間に沈黙が支配する。

 

 優斗の親父さんも席に座るに座れず、優斗も身じろぎもできず、淡々と時間だけが過ぎて行った。


 ウエイターのお姉さんも気になったのか、「あのー、どうかなされましたか?」と親父さんに声を掛けたところで、「おい、行くぞ、神児」と司が声を掛けてきた。


 えーっ、このタイミングでですかー。


 そして、「初めましてー、僕、北里司といいます。優斗君の友達をさせてもらっています」


 そういって、親父さんの前に立ち大きな声で挨拶をした。


 そして、「おい、神児、お前も挨拶しろ、優斗の親父さんに」そういって司に促される。


「えーっと、僕も優斗君と一緒のビクトリーズでサッカーをしている鳴瀬神児と言います。よろしくお願いします」


 そういって、頭を下げる。


 すると、「こんな奴に頭下げる必要はない」優斗は声を押し殺して言った。 

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