第179話 熱闘!関東大会 その3
♪パッパラパー パー パッパラパー パー パッパラパーパーパー♪
「サッカーを愛する皆さん、ご機嫌いかがでしょうか。
本日は富士北麓公園 陸上競技場より中体連関東大会一回戦、八王子市立八王子西中学校VS鹿嶋市立鹿島西中学校の試合をお送りします。
実況は私、鳴瀬神児と、解説はこちらにいる北里司でお送りいたします。提供はみつび…………」
「おまえ、ずいぶんと、古いネタ持ち出してきたな」と司。
知ってる人は知ってる。
「というわけで、関東大会キックオフ。八西中はいつもの3-4-3で、鹿島西はえーっとー……」
「ありゃー、4バックの4-4-2じゃねーかな」と司。
「だそうです」
「いきなり鹿島西のロングキックから押し込まれる八西中、しかし、拓郎が無難にクリア。今シーズン、ここまで1失点の八王子のカテナチオ八西中。 安定の守備力であります」
「まぁ、守備に関しては徹底的に鍛えたから大丈夫だと思うんだけれど……」と司。
すると、拓郎からのロングボールが優斗に入ると果敢に左サイドを責め上がる。
「うーん、やっぱ、攻撃の枚数が少ないよなー」と司。
「出来たら、吉村さんと羽田さんのダブルボランチも上がってほしいんだけれど……」と俺。
優斗は囲まれると、ここで取られるくらいならと、ゴール前にフォワードの竹原さんしかいないけど無理矢理クロス。
しかし、あっさりとクリア。
「得点の匂いがしないなー」と司。
試合の流れとしては、ほぼ八西中の陣内で試合が展開し、時折優斗の裏抜けに縦パスを入れてのカウンターといった感じだ。
「八西中の息の合ったフラットスリーが一斉に手を上げてラインを上げます」
「おおー、ナイス、オフサイドトラップ」
その後も、鹿島西中が八西中陣内でボールを回しますが、決定的な崩しはゴールキーパーの順平と拓郎、西田さん、武ちゃんのディフェンス陣の頑張りにより、なんとか凌ぎきると、前半は無失点のまま終了。
「あー、やっぱ、30分ハーフって短いなー」と司。
「うん、俺達の試合で言ったら、これからって時に終わっちゃう感じだもんなー」
「ボールポゼッション率は7-3で鹿島西って感じか」と司。
「決定機と言えるチャンスは鹿島3回に対してうちは優斗の抜けだしの1回、枠内シュートはともに1本づつですねー」
俺達は前半の試合を見終わると、八西中のロッカーに向かう。
「おつかれー」
「ああ、司に、神児かー」と関沢先生。
「どうにか、0-0で折り返せましたねー」と俺。
「いやー、きっついわー、一人一人のレベルが高いねー」と拓郎。
「まあ、でも、この前の決勝の修得よりはまだましかなー」と順平。
「いまんところ、ヤバいシュートは0だからなー」と武ちゃん。
「優斗はどうよ?」
「んー、プレッシャーはそんなんだけれど、とにかくチャンスが少ないんやなー」
「まあ、都大会の時みたいにマンマーク付いてないから、その分やりやすいっていえばやりやすいだろ」と司。
都大会の時は八西中の手の内が周りの学校にばれてしまい、最大の得点源である優斗にマンマークがずーっとついていた。
それに比べて、今のところ、優斗にはえっぐいマーカーみたいなのはついてないからなー。
まあ、関東レベルまでには今のところ優斗の名前は知れ渡ってないって。
だったら、手を打たれる前に今のうちにチャンスを生かさなせれば。
「先生、後半、竹原さんを下がり目にしてトップ下のポジションにしてみてはどうですか?」と司。
「そうだな、俺がトップでポストプレイするよりも下がり目にして優斗にスルーパス通す方が効果的か」
「はい、その方が中盤に数的優位作れますし」
「翔、最後の詰め、忘れんなよ」
「まかせてよー」と翔。
「あと、前線からのプレスもよろしく」と俺。
「はいはい」
「前半、相手のディフェンスラインにプレッシャー行けてなかったからもう少し全体的にタイトに」
「オッケー」と両サイドバックの涼と真人。
「うまく高い位置でボール取れたら一気にカウンターな」
「もちろん」と翔。
「ともかく、この試合で負けちまったらここで終わりだからな、もうひと踏ん張り、頼んだぞ」と司。
「オッケー」と八西中イレブン。
そんな感じで後半が始まった。
「後半はゲストでU-15日本代表の中島選手をお呼びしております」
前半、会話を全く振らなかったために空気になっていた翔太も強引に参加させる。
「ところで、中島選手。中島選手だったらこの試合、鹿島西中をどうやって攻略しますか?」
「ドリブルで全部抜く」
「………………どうもありがとうございました」
司のアドバイスで竹原さんが中盤まで下がってくれたおかげで、前半よりはボールポゼッションが出来るようになった八西中。
あいかわらず優斗にもそれほどタイトなマークが付いていない。
今のうちに先制点が取りたいなーと思っていたところで、拓郎がカットしたボールを竹原さんに入れる。
ナイス縦パス拓郎!!
すると、竹原さんは左サイドからダイアゴナルランで切れ込んできた優斗の足元にパス。
すると、母指球トラップが決まったのか、ターン一発で相手ディフェンダーを振り切ると、ゴールキーパーと1対1。
「今だー、打てー!!」俺も司も声を上げる。
が、次の瞬間、優斗はGKの鼻先を掠めるように真横にパス。
すると、ノーマークで走り込んでいた翔がスライディングでボールを押し込んだ。
「ヤッター」とみんなで抱き合う俺達。
待望の先制点が後半14分八西中に入った。
「えらい、優斗、あそこでフリーで走り込んでいた翔をちゃんと見てたんだ」と司。
「いやー、あそこで、クロス出せる度胸に恐れ入りました」と俺。
「きっと、仲間を信じてたんだねー」と翔太。
とにかく、ベストエイトに近づくゴール、でかした、優斗。
そうなってくると、前後半60分という試合時間はなかなかいい。とにかくあと15分しのげば八西中初の全国大会出場にリーチが掛かる。
しかし、鹿島西中も黙ってはいない。
残り15分、死に物狂いで八西中に襲い掛かって来た。
「あっぶねー!!」
サイドを完璧に崩されてのセンターリングを武ちゃんがギリギリクリアをする。
その後もずーっと、八西中陣内で試合が進み続ける。
右から左からセンターリングの雨あられ、とにかく点を取らなくてはこの夏が終わってしまうと合って、鹿島西はCBも攻撃参加。
そこを、ギリギリでしのぎ続ける八西中。
都大会から鍛え上げられた鉄壁のディフェンス陣がゴールに鍵をかける。
「これ、ディフェンスだけなら全国有数じゃないのか?」と司。
「確かに、うちのチームと試合しても、結構いい勝負しそうだよな」
と思っていたところで、鹿島西中DFラインで虎視眈々とチャンスを狙っていた優斗に縦パスが入る。
相手陣内にはCBとGKだけ。
優斗はゴールに向かって一直線。
ボールを奪いに来たCBをお得意のエラシコ抜き去ると、GKと1対1。
相手ゴールキーパーはそうそうにペナルティエリアを飛び出して優斗に飛び掛かる。
が、優斗はそれよりも一瞬先に、つま先でチョンとボールを蹴ると、ボールはキーパーをすり抜けコロコロと鹿島西中ゴールに転がっていった。
後半25分、優斗の抜け出しで、試合を決定づける追加点。
関東大会1回戦、八西中対鹿島西中のスコアは2-0となった。
ここで緊張の糸が切れてしまった鹿島西中イレブン。
うちがこの都大会から未だに1失点しかしていないのを知っていたのだろう。
その後も、何度か、強引なシュートを試みるが、得点には至らず、結局試合は2-0で八西中の勝利となった。
「やったー」と言いながら、スタンドの応援席に駆け寄って来る八西中イレブン。
応援に駆け付けていた保護者の皆様たちもヤンヤヤンヤの大歓声。
八西中は、この時点で最終日まで戦える権利を手に入れたのだ。
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