第178話 熱闘!関東大会 その2

 すると、「あのー、もしかして、代表の北里さんですか?」と司の前に女の子がやって来た。


 鹿島西中学校のジャージを着ているところを見るとどうやらマネージャーらしい。


「はい、そうですけど?」と司。


「昨日の試合、とっても感動しました。よかったら握手してください」と。


「えっ?俺?」そういって自分を指さす司。


 どうやら、さっき握手してた翔太が、俺達も昨日の韓国戦の試合に出ていた代表の選手だとさっき握手しに来ていたサッカー部員に教えていたらしい。


 そういや、昨日の試合テレビ中継されていたんだっけ?


 すると、第一試合の対戦相手同士である千葉一位の流通経営大学付属中学のスタンドにいたサッカー部員やら、埼玉浦和西中学校の選手達がワラワラワラワラやって来た。


「中島翔太選手ですよね」とか、


「ドリブル凄かったです」とか、


「北里選手、最後のシュート凄いかっこよかったです」とか、


「大竹さんとのコンビ、とっても感動しました」とか、


「写真取っていいですか?」とか、


 そうこうしているうちに、なんか俺の前にも人がやって来た。


「鳴瀬さん、マジ感動したっす」とか、


「ファン・ソンミンのマークめっちゃ熱くなったっす」とか、


「最後のスライディング、しびれましたっす」とか……


 テレビ中継の底力なめてたわー。


 そりゃ、同じ年のサッカー選手が韓国と戦ってるんだもん。見るよな、サッカー部員で合宿してたら、録画してでも。


 それに、調子乗って代表のユニフォーム着て金メダル掛けてたら否応にでも目立つ。


 そういや、皆さん、この時期普通に携帯持ってらっしゃるんですね。 


 なんか、試合前のあわただしい時間帯に、スタンドで写真撮影が始まってしまった。なんかどうもすみません。


 で、握手とか、写真撮影とかは別にまあいいんだけれど、俺と司と翔太とではなんだか、明らかにその層が違うんだよ。


 翔太の前にはサッカー大好きって感じのサッカー小僧とか可愛らしい女の子が半々くらいで並んでてさ、


 司の前にはほぼ女の子、


 そして俺の前には体のごっついあんちゃんしか並んでない。


 これってちょっとおかしくないですか?


 対応も、司や翔太は一緒に並んで写真取ったりしてるのに、俺はもっさいあんちゃんから両手をグイグイ掴まれて握手されたり、渾身の力でハグしてきたり、なんか、妙に感極まって「俺も頑張りますから」とか言ってきたり……俺一人だけ客層(っていうのか?)が明らかに違う。


 まぁ、前の世界でも、俺にサイン求めてくるやつってこんな感じだったしなー。


 ほら、キャプつばの石崎君のファンって一定数いるじゃないですか。


 あそこのファンとかぶるんですよねー。俺って……

 

 まあ、そろそろ試合が始まるし、いつまでやってても埒が明かないんで、「すみませーん、そろそろ試合が始まるんで、続きはハーフタイムにお願いしますー」と言って撤収。


 俺たち三人はジャージを着て目立たないように隅っこのように隠れた。


 すると、「よかったわねー司、たくさんの女の子に握手してもらって」とどう見てもよかったという顔じゃない遥。


「あのー……」と言ったまま言葉が出てこない司。どうやら自分の失態に気が付いたようだ。


 うん、いい気味だ。(ゲラゲラ)

 


 試合が始まる。


 1回戦第一試合の対戦カードは千葉一位の流通経営大学付属中学と埼玉二位の浦和西中学だ。


 流通経営大学付属中学っていえば、その上の高校がU-18プレミアリーグイーストに所属して優勝経験もある名門中の名門だ。


 ちなみにプレミアリーグイーストに所属している高校って青森大山田とここだけね。


 実力はJのジュニアユースとどっこいどっこい。以前、ビクトリーズで戦ったこともあるが、普通に互角だった。


 そしてそこのトップの流通経営大学といえば、日本屈指のJリーガーを大量に輩出している学校でもある。


 まあ、1回戦で当たらなくてラッキーだった。2回戦ではあたるんだけれどね…………


 そしてその対戦相手の浦和西中学と言ったら、埼玉レッドデビルズのおひざ元の中学校。というわけで、大半は埼玉レッドデビルズのジュニア出身です。


「うーん、やっぱ、流通経営の方が押してるなー」と司。


「パス回しとかスムーズだよなー」と俺。


「オフザボールの動きもしっかりできてるし」と思ったところで、流通経営のサイドチェンジが決まる。


「おおー、ナイスパス。よく反対側のサイドの動き見てたなーあの右サイドバック」


 流通経営の左サイドバックが一気に浦和西のゴール前にやって来た。


 すると、お約束通りのDFを引き付けてからの折り返しのセンターリング。


 ニアでフォワードがつぶれて、ファーに詰めていたハーフの選手がしっかり押し込み先制点。


「うわー、教科書通りの攻撃だー」と司。


「こういうの出来たらいいんだけれどなー」と八西中の両サイドバックの涼と真人を見ると、気まずそうに視線をそらせた。


 おい、大丈夫かお前ら、今日勝ったら、こいつらと戦うんだぞ。


 対する浦和西も部分部分ではそれなりにいいプレイを見せるのだが、対戦相手の流通の方が一枚も二枚も上手だった。


「浦和西あたりだったら、うちもいい試合できると思うんだけれど、ここ相手だとちょっときついなー」と冷静に分析する司。


「そんな事言うなよー」とままどおるを食べながら拓郎。おい、おまえ、それ何本目だよ!!


 その後は浦和西中も守備が何とか持ちこたえて、前半はそのまま1-0で終了した。

 

 ハーフタイムにお約束通りにさっきの場所に戻って見ると、あら不思議、さっきはあれだけいた人たちがほぼほぼ居なくなっていた。


「まあ、頭が冷えたんだろう」と俺。


「そんなもんかー」と司。


「大体こんなもんだよ」と翔太。


 多分、さっき並んでいた人たちも大半はなんでならんでたのか分からなかった人が大半なんだろう。大方、前の人が並んでるからとりあえずならんどこう、ってな感じだ。


 俺達はジャージの上着を着て代表のユニフォームを隠すと元居た場所に戻る。


「あら、ずいぶんとお早いお帰りねー」と遥がニコニコ笑って言う。なんか目だけは笑って無いが……


 というわけで、後半開始です。


 浦和西も必死に攻撃を組みたてるのだが、流通経営のプレスが激しくてなかなかボールが運べない。


 そうなると、ロングボールに逃げざる得ないのだが、そこら辺の精度がやはり、実力に如実に表れてしまう。


 ロングボールを大方、相手CBに回収されてしまうと、またそこから延々と流通経営の攻撃のターン。


 そんな感じで後半、浦和西の足が止まったところを、流通経営のFWが2得点してジ・エンド。


 試合は3-0で流通経営大学付属中学校の勝ちとなった。


「うーん、勝ったら、こことかー、苦しいなー」と竹原さん。


「まあ、それよりも、このあとやる鹿島西中との試合を集中しましょうよ」と順平。


「まあ、そうだな、集中、集中」と羽田さん。


 俺達はその後、ロッカールームに引き上げると、試合前のミーティングと軽い昼食を取って、試合の準備をした。

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