第168話 決戦、韓国戦 その2
「君が代」が聞こえてくる。
ピッチの脇にはテレビカメラのクルーや雑誌のカメラマンが並んでいた。
U-15東アジア選手権 日本対韓国戦、勝った方が優勝とするとあって、急遽テレビ放送も放映が決定されたみたいだ。
前の世界ではJ3でもネット中継で放映されていたが、こうやってテレビの電波に乗るのはホントいつ以来の事だろう。
そういや司にいたっては、人生で初の体験だな。大丈夫かお前、こんなことで緊張してたりはしないよな。
司に気付かれないように俺は隣にいる司の様子を覗き見ると、今まで見たことないくらいのおっかねー眼つきで韓国の選手を睨みつけていた。
これはこれでちょっと気になる。
まあ、でも、司のスイッチの入った時に目はこんな感じだったよな。
大丈夫だ、お前に何かあったら俺が骨を拾ってやる。だから司、俺に何かがあったらお前が骨を拾ってくれよな。
韓国の国歌が終わると、お互いの選手がピッチに散らばる。
見ると俺と相対する韓国の左サイドには、ファン・ソンミンがいる。
分かっていたこととはいえ、さすがに心臓が高鳴って来た。
今までのサッカー人生の中で間違いない最強の相手、未来のプレミアリーグの得点王とデュエルが出来るのだ。
フットボールの神様に感謝しなくてはならない。
さあ、韓国の英雄よ、どの程度の実力なのか俺に教えてくれないか。
日本のフォーメーションはこの大会初めて採用する4-3-3。
https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16817330665752951532
U-15日本代表(対韓国戦)
〇
〇 南 〇
翔太 堂口
〇 〇
山下(和)山下(翔)
〇
森田
〇 〇
司 〇 〇 神児
富安 岩山
守備力の高い和馬君と翔馬君をインサイドハーフに置いて、高い位置でのショートカウンターを狙う。
また1ボランチながら場合によっては司が偽サイドバックでボランチに入り森田さんとダブルボランチを組む戦術だ。
そして俺のいる右サイドバックでは、俺と森田さんと翔馬君でファン君のドリブルをケアし、あわよくばあわよくばそこからのショートカウンターを狙う。
主審の笛が鳴ると、韓国のキックオフで試合が始まった。
韓国のフォワードがボランチにボールを渡すと、ファン・ソンミンの足元に入れる。下手な小細工は一切なしだ。
試合開始早々、ファン・ソンミンが俺にデュエルを挑んできた。
フットボーラー冥利に尽きるというものだ。とりあえずフットボールの神様には感謝をしておかなくては。
「止めろ、鳴瀬ー!!」
ボランチの森田さんが大声を上げる。
「もっと寄せろー神児ー!!」
岩山さんの悲鳴にも似た怒声が聞こえてくる。
俺は一直線に突っ込んできた敵の9番にショルダーチャージを試みた。
その途端、ガツンッ!!と火花が飛び散るような衝撃が脳天にまで貫ぬいた。
なんじゃこりゃ、こいつダンプかブルトーザーかよ。
体を寄せてるにもかかわらず、真っ赤なユニフォームを着た9番は止まるどころかドンドンと加速していく。
翔太といい、三苫君といい、なんで俺のサイドにはこういう化物ばっか来るんだよ。
自分のポジションの運の無さに一瞬だけ嫌気が差すがすぐに思い直す。
だってそうだろ。
その程度の覚悟ならば、そもそもこのユニフォームに袖を通してはならないのだ。
この紺碧のユニフォームに袖を通したフットボーラーは、すべからく、それと引き換えに、己の全てをこの胸に輝く日の丸に捧げなければならないのだ。
闘争心を搔き立てられて、脳内にアドレナリンがドクドクと溢れてくると力が無限に漲って来た。
「うおぉぉぉー!!」
俺は雄たけびを上げると、真紅のユニフォームを纏った敵の9番の足元に渾身のスライディングタックルをした。
俺の右足のつま先がギリギリボールに触れると、ファン君の足を削ることなく、タッチラインの外に蹴り出すことが出来た。
ファン君はふわりとジャンプをして俺の体を飛び越える。
ファーストコンタクトとしては五分五分か。まあいい。この後も、嫌ってほど1対1をするのだから。
試合開始直後の激しいプレイとあって、審判が急いで駆け寄って来る。もっとも、しっかりとボールを狙った正当なスライディングタックルだ。
審判からどうこう言われる筋合いはない。ファン君も笑顔で手を差し出してくる。俺もニッコリとほほ笑んでファン君の手を握り返す。
どうだい、どっから見てもスポーツマンシップに則った清々しいやり取りだろ。
もっとも、俺もファン君も笑顔で手を握り合っているが、今にもお互いの手を握りつぶさんと渾身の力で握りしめている。
ギリギリと奥歯が歯軋りをする。
「大丈夫か、鳴瀬」
森田さんが心配そうにやって来た。
「大丈夫です、森田さん。でも、俺が裏取られたら、森田さん、カバーお願いします」
「分かった、でも、あんまり無理するな。出来るだけ1対2で対応しような」
「はい、ありがとうございます」
でも、大丈夫ですよ。もう少し、ファン君と1対1を楽しみたいので。
しかし思った以上の馬力がある。最初にぶつかった時の肩の痛みがズキズキとする。見るとファン君も肩を押さえていた。
どうやら俺だけがダメージを受けたわけでは無かったみたいだ。
韓国のスローインで試合が再開すると、ファン君は無理をせず、ボールをディフェンスに戻す。
お楽しみは後で取っておくタイプなのかな?ファン君は。
すると、センターバックを通じて、司のいる左サイドに展開すると、韓国のボランチにボールが入った瞬間、狙いを定めて山下君達が一気にプレスに入る。
影もなく忍び寄る翔馬君と和馬君。そこに蓋をするかの如く司が襲い掛かる。
たまらずボールをロストする韓国のボランチ。
韓国は前線の3トップこそワールドクラスだが、ディフェンスラインを始めとするボール回しに難がある。
戦前のレポートに書かれていた通りだ。現に中国戦でも終盤、失点につながるボールロストを犯している。策略に長けた司達が見逃すはずがない。
和馬君がボールを刈り取ると、三人が必ずボールを奪い取ってくれると信じていた翔太がオフサイドラインぎりぎりに走り込んでいる。
和馬君は狙いを定めて翔太の足元にボールを入れる。
左足のインフロントにピタリと収めたボールを、翔太はワンフェイクしてからカットインすると、あっという間にキーパーと1対1。
韓国のセンターバック二人が必死に手を上げるが後の祭り。翔太は狙いを定めて確実にゴール右隅に流し込む。
喜ぶより先に線審を見る翔太。
線審は旗を下げたまま。オンサイドだ。
直後、翔太は膝から滑り込み、雄たけびを上げながら喜ぶ。
すぐに翔太の周りに仲間が駆け寄ると、誰も彼もが日本のエースに抱きついてくる。
決める時に確実に決める。それこそが日本が誇るサッカー小僧、中島翔太の真骨頂だ。
前半開始1分、スコアが動く。
日本対韓国は1-0となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます