第133話 Jヴィレッジにようこそ!! その1

https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16817330664160527381


「王手飛車取り」

「待った」


「神児、もう待った3回目だぞ」

「待った」


「ったくしゃーねーなー。じゃあ、ほい、王手金取り」

「待った」


「お前なー」

「待った」


「ぶっちゃけ言うとなー、もうあと5手で詰むぞ、ソレ」

「…………………」


「どうすんだよ」

「…………もう一回」


 そう言うと、俺はマグネット将棋盤の駒をまた並べ始めた。

 

 今は俺達は何をやっているかというと、バスの中で将棋を打っています。


 えっ、遠足か旅行にでも来てるのか?だって…………ぶっぶー、


 今は常磐自動車道のバスの中、実は俺達、これから憧れのJビレッジに行く途中なのです。


 ちなみにJヴィレッジとは、福島県にあるサッカーナショナルトレーニングセンターの事だよ。


 つまり俺達はこれから、U-15ナショナルトレセンの合宿に行く途中なのです。ヤッター!!!


 夢にまで見た年度別だけれど日本代表の合宿。正確にはU-15日本代表を選ぶための合宿。


 前の世界では決して届かなかったナショナルトレセン。昨日は興奮と緊張でよく眠れませんでした。


 なんとかここで代表の座を勝ち取り、8月に行われるU-15東アジア選手権に出場するのだと、俺は今、闘志をメラメラと燃え上がられている。


 JFAのバスに揺られてながらJヴィレッジの到着を今か今かと待ちわびている真っ最中です。


 と、「神児君さっきから銀の使い方がいまいちなんだよねー」と翔太。


 原始棒銀の使い手の俺様に銀の使い方を指図してくるとはいい根性しているじゃないか翔太。


「次は僕と一局打とうよー」


 望むところだ翔太。サッカーの前に将棋でけちょんけちょんにしてやるぜ!!


 そんなことを思っていたら、バスは守谷サービスエリアに入って行く。おっとトイレ休憩だ。


 …………3日前の事、


 帰りのホームルームの終わりに関沢先生から、


「おーい、鳴瀬、北里、後で職員室来ーい」と呼び出された俺達。


「なんや、なんや、なにやらかしたんや?」となぜかうれしそうな優斗。


「いやー、別に、心当たり無いんだけれどねー」と一応、優等生で通している俺と司。


 そのまま首をかしげながら職員室に向かって行った。なぜだか優斗も付いてくる。


 職員室に付くと関沢先生から「ほいっ」と何やら書類を渡された。


「えーっと……」と俺、「なんですか?」と司。


「公休願い、公休願い」と関沢先生。


 書類を手にして俺が首をかしげていると、「あっ」と声を上げる司。


「トレセン、トレセン」と俺に声を掛けてくれてやっと気が付いた。


「まあ、俺も抜けてたけれど、大丈夫か、鳴瀬、北里、今週の金曜日からだろ、ナショナルトレセン」


 ……そうなのである。今回のU-15ナショナルトレセンは今週末の金、土、日に福島県のJヴィレッジで行われるのである。


 そういう訳で、学校は金曜日公休で休み扱い、なんか特別感があっていいよね。


 司も前の世界で、15年近く前に経験してたことだからすっかり忘れていたみたいだ。


 俺と司は関沢先生から公休願いを受け取ると、「明日までに保護者の印鑑付いて持ってこーい」と言われてしまった。


 ついでに、「うらやましいなー」とも。


 でも、まあ、先生だってオリンピック行ってたくらいだから、こういうのいろいろ行ってたんでしょ?


 職員室から出てくると、優斗が興味津々に待ち構えてた。


「なんや、なんや、何怒られてたんや?」と怒られた前提で話してくる。失敬な話だぜプンプン。


 俺は思いっきり、ドヤ顔で優斗に公休願いを見せつけてやった。


「………なんや、法事かなんか行くんかい?」と首をかしげる優斗。


「代表の合宿だよ」とニヤニヤ。


「…………なにー!!学校休んで、サッカーするんかい、お前ら!!」とちょっと憤慨の優斗。


「まあ、しょうがないよね、日本代表に選ばれちゃったんだから」とまだ選ばれてないのに偉そうに言ってしまった俺。


 やばい変なフラグ立たなきゃいいが……


「まあ、そういうことだ。週末の試合頑張れよ」そう言ってその場から立ち去る司と俺。


「み、土産くらいなんか、買ってこいやー!!」と背後から優斗に声を掛けられた。


 俺はトイレ休憩がてら、サービスエリアのお土産物コーナーを散策する。


「なにやってんだよ、早くしないとおいてかれるぞ」と司。


「いやー、優斗達のお土産、何にしようかちょっと見ててさー、司はなんにすんの?」


「俺は帰りにままどおる買って帰るよ、お袋にも頼まれてるからさ」


「あー、ままどおるかーあれもいいなー」


 ちなみにままどおるとは、バターを多く加えたミルク味の餡を生地で包み焼き上げたお菓子で、福島県郡山市の菓子メーカー三万石が製造している。(Wikipedia)より。


 ちなみに「ままどおる」とはスペイン語で"お乳を飲む人々"の意味で、1967年に発売されて以来のロングセラー商品です。(Wikipedia)より。


 とってもおいしいからみんなも福島に立ち寄った際はお土産にどうぞ。


 おっとヤバイ、早く戻らないと、ほんとにおいてかれちゃう。俺達は駆け足でバスに戻った。



 そこから、バスに揺られて2時間ちょっと、俺達はついに夢にまで見た、Jヴィレッジに到着した。


 ちなみに、読者の皆様に説明すると、Jヴィレッジとは日本サッカーの聖地と言われている場所で、東京ドーム約10個分の敷地面積に全8面の天然芝(Jヴィレッジスタジアム含む)、全天候型(屋内)人工芝1面、屋外人工芝2面の計11面のピッチを備え、サッカー日本代表、Jリーグクラブなどのトップチームから草サッカークラブまで、幅広い層の合宿施設として利用される施設なんだ。そして、宿泊・研修施設が併設されているメリットを活かして、審判員や指導者の養成事業などでも利用されている日本サッカー界の重要拠点で、2002FIFAワールドカップの際にはアルゼンチン代表が、この場所でキャンプを構えたことがあるんだってさ。(wikipedia)より抜粋。


「うーん、疲れたー」とバスを降りて伸びをする翔太。


 まあ、翔太のような代表の常連ならそれほど珍しくもないのだろうが…………



 というわけで、今回のトレセンで呼ばれた全国津々浦々のサッカー小僧45名の点呼を取ると、部屋に荷物を置いてから、再度集合して、協会のおじさんがJビレッジの施設説明をしてくれた。


 その説明を受けながら、途中、体重を測ったり体脂肪を測ったりなにやらいろいろデーターを集積している。


 一通り全員の身長、体重、体脂肪、体内水分、骨密度等を計測したら、なにやらおっきな部屋に通されて、白衣を着た人たちがプロジェクターを用意してスタンバってた。


 ちなみに俺の身長は172cm、体重60㌔、体脂肪率12%、また身長が伸びてる、うれしい!!!


 で、司はというと、身長176cm、体重68㌔、体脂肪16%、うーん、ダイエットに成功したとは言え、もう少し絞れそうだなお前!!


 と、そこでいきなり座学。食事プログラムなるものが始まった。そうだよね。アスリートには食事のとり方とか大切だよね。


 それが終わると、あっという間にお昼の時間、俺達はJヴィレッジの中にあるでっかな食堂に行くと、「では、こちらのトレイを持ってテーブルについてください」と、白衣の人がまた説明を始めた。


 トレイの上には肉じゃがに、鶏モモの塩焼き、いんげんの炒り卵和えに人参とエノキの炒め物、トマトのサラダに、キウイに白米が置いてある。


 そして、その食事一つ一つの栄養を説明しながら食事を取る。

 

 …………なんか、トレセンって、思っていたのとちがーう。


 そうしてやっと、午後になって、ボールを蹴れることになった。

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