第103話 トレセンへようこそ!! その1
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「めんどくさい」俺は電車のドアにもたれかかると司に言った。
「しょうがねーだろ、最寄りの駅行くにはここしかないんだから」と司。
「ってか、なんで、わざわざ世田谷行くのに、一旦、新宿まで出なくちゃいけねーんだよ」と俺。
「そういうもんだから」と司。
「めんどくせーなー」俺はそう言うとため息をつく。
監督に言われて、駒沢補助グラウンドに行くことになったのだが、グーグルマップを見たら、多摩っ子ランドから直線で10㌔ちょっと。
「なんだ、じゃあ、自転車で行こうぜー」と司を誘ったら、
「自転車で行くのは絶対にやめておけ」と司。
「なっ、なんでだよ。普段走っている多摩サイから、二子橋渡りゃすぐじゃん」と言ったら、
「お前、トレセン舐めんなよ」と。
「な、舐めてなんかないよ」と反論したが、
「万が一遅刻したら、この先の代表、呼ばれなくなるぞ!」と脅してきた。
ためしに監督に聞いてみたら、「絶対に電車で行っとけ」と………
電車なら万が一遅れたら遅延届を出せばどうにでもなると監督。そんなもんなんですかねー。そこまでいわれちゃしょーが無い。俺はみんなの意見をしっかり受け止め渋々満員電車で行くこととなった。
この時間、帰宅ラッシュと重なるし、そもそも電車移動好きじゃ無いんだよねー。
というわけで、中央線に乗ってわざわざ新宿まで出て、山手線に乗り換えて渋谷。んで、そこから東急田園都市線に乗っている真っ最中。
初めて乗ったぞ、こんな電車。ってか、全然田園ねーじゃねーかよ。
周りを見ると、メンバーは俺と司と健斗と沖田さん。翔太は来ないのか?と本人に聞いたら、「あ、僕、もう、U-15のナショナルトレセンに選ばれてるからー」とにっこり。
あーそうですか。いいですねー、エリートさんは。ちなみに翔太はU-12の時からのナショナルトレセンの常連だとか…………この前の別れ際に「じゃあ、トレセン頑張ってねー、神児君ならすぐにナショナルに行けるよー」と勇気づけられてしまった。あざーっす。
というわけで、トレセンとなんぞや。とりあえず、駒沢大学駅に着く前までにちょっと説明したいと思う。
トレセンとはトレーニングセンターの略。とはいっても、美浦や栗東にあるお馬さんの施設ではない。
JFA(日本サッカー協会)の主催する将来の日本代表となる選手を発掘し、よい環境、そして良い指導を与える制度の事だ。
で、何をするかというと、トレセンに選ばれたプレイヤーたちが集まってトレーニングしたり、テストマッチをしたり、プロのサッカー選手を目指すためにどういう心構えでいなければならないかなどの座学をしたりする場所なんだ。
そしてそのトレセンのコーチのお眼鏡に掛かるとさらに上のトレセンに呼ばれることになる。つまり才能の発掘と、トレセンに選ばれたプレイヤーたちが練習やテストマッチを通じて互いに個を高め合い、よりよいプレイヤーに成長するための場所なんだ。
で、俺の住んでいる八王子だと、八王子市主催のトレセン、南多摩地区のトレセン、東京都トレセン、関東地区トレセン、ナショナルトレセンとどんどんと範囲が広がっていく。
じゃあ、お前は八王子あたりのトレセンには行ってたんだろう?ノンノンノン。
実はJのジュニアユースはJFAの直管の関東トレセンから入ることになっているのだ。だってそうだろ、スカウトされたり、厳しいセレクションを通ってジュニアユースにいるのだから。
市や多摩地区や東京はそれぞれの組織が管轄している。そしてその上になるとJFAの管轄になるのだ。
ちなみに俺がこれから行く関東トレセンは、地域トレセンの中に入っており、九つの地域(北海道、東北、北信越、関東、東海、関西、中国、四国、九州)単位で行われるトレセンなんだ。
そしてこのトレセンの狙いはというと、今年の夏に福島のJビレッジで行われるU-15東アジア選手権の日本代表候補を選ぶためのものなのだ。
もっとも翔太から既にU-15のナショナルメンバーは大方決まっているらしい。
つまり、ここでトレセンのコーチに選ばれナショナルのトレセンで今のU-15の日本代表の選手からそのポジションを奪わない限り、U-15東アジア選手権には出られないという事なのだ。
そう考えてみると確かに、今日一日で選考が終了してしまうのに遅刻したらアウトだよな。そりゃ司や監督が「電車で行けー!!」っていうのも納得だ。
ちなみに身近なところだと、八西中の順平や武ちゃんは八王子市のトレセンに行ってるし、神谷さんは南多摩地区のトレセンに行ってる。
かくいう俺も、前の世界では高校生の時、東京都のトレセンまでは行っていた。そして司は中学三年生の時にナショナルトレセンまで行っていた。
電車の外から見える景色を見ながら、奴は今何を考えているのだろう。前の世界の事なのか、それともこれから先の事なのか……
気が付くと電車は駒沢大学駅のプラットフォームに入っていった。
駅の東口を出て5分程歩くと、お目当ての駒沢オリンピック公園に出る。そしてキョロキョロあたりを見渡すと、「U-15関東地区トレーニングセンター実施場所」と立て看板が立てられている。
もっとも、その周囲にはレッドデビルズの赤いジャージやSC東京の青赤のジャージ、柏、千葉、大宮とここら辺のJの下部組織のジャージを着た選手がうろうろしていた。
まあ、間違いようがないわな。俺たちは駒沢公園補助競技場にやって来た。するとそこには見慣れた水色のジャージを着た4選手が…………「あのー、先日はどうもいろいろ失礼しました」そう言って丁寧に頭を下げる俺。
もちろん頭を下げた相手は、三苫君に田中君に三芳君に板谷君だ。
「お、おう」と板谷君。
「どうもー」と田中君。
「こんばんは」と三芳君。
黙って頭を下げる三苫君。
俺に視線を合わせてくれないのは気のせいかな…………
とりあえず、こんな気まずい状況は打破せねばと、「ね、ねえ、とりあえずみんなでボール蹴ってアップしよう」と提案する。
「う、うん」と川崎の4人、「まあいいんじゃないの」と司を含めたビクトリーズの4人。
ピッチの端っこで俺たち8人はキックの感触を確かめるように丁寧にインサイドでボールを蹴り合った。
と、「よー、お前ら、ちゃんと遅刻しないでやって来たなー」とどっかで聞いた声が……
振り返ってみると、そこには大下監督がいた。
「なっ、なんで、監督がいるんですか?」と司。
「ボランティア」と監督。
みるとあちこちに知っている顔の大人がいた。
もちろんそこには川崎の鬼本さんも…………すると、「じゃあ、みなさ
ん集合してくださーい」とヤタガラスのワッペンを付けた協会の人が集合の合図をかけた。
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