第72話 北里さんちのチョコレート工場 その2

「おーい、莉子パス、いいよ、ナイスパス」と翔太。


「翔太、こっちこっち、うまーい」と莉子。


 司の家でのバレンタインお茶会の後、ちょっと体を動かそうということで、近所の広場で3対3のミニゲームをやっている。


 まあ、そこは、言うても男子と女子の体格差とか考えながらやっているつもりだったのだが、全員がビクトリーズ所属という事でどんどんと熱を帯びてくる。


 

 なんだか、気が付くと、ギャラリーまでやって来て「うまーい」だの「何あの子」とか「ほら、ビクトリーズのユニフォーム着てるよ。ジュニアかジュニアユースの子だよ」などなど。


 そうなってくると、誰も手も抜けないという事で、全員目の色が変わって来る。


 ちなみにルールは3対3で先に10本パスが通ったら勝ちとあくまでもシンプルなルール。


 すると、司が翔太にぶち抜かれて、パスを通され、ハイ終了。


「やった、やったー、司君に勝てた勝てたー」と大喜びの翔太。


 すると、それを見ていた近所のちびっ子達が「すげー、やっぱビクトリーズの人って上手なんだー」と翔太をリスペクトする。



 と、それを聞いていた司がいきなり、「全員、ビクトリーズだから」


「へっ?」


「ここにいる全員、ビクトリーズだから!!」とどうでもいい主張を始める。


 いいじゃん、子供のいう事なんだから、笑ってスルーしてあげれば……


 すると、「へっ?ビクトリーズってそんなにデブでも入れるの?」と禁断の一言を言う、空気の読めないちびっ子。


 その途端、目の色ががらりと変わる、見た目は子供、精神年齢ほぼ三十路のふとっちょ上司。


「おい、そこのガキ、1対1で勝負だ」とブルースリーの指を4本立てて、こっち来いのポーズをしている。


 本人はブルース・リーのつもりだろうけど、どう見ても、燃えよデブゴンのサモ・ハン・キンポーだ。


 すると、大人げない事この上ない司。


 そのまだ落ち切らない豊満なボディーをフルに使った鬼プレイで、ちびっ子をこれ以上ないくらいにちんちんにする。


 せめてボールくらい触らせてやれよ。


 そんな年下相手に大人げないぞ。司。


 しかも、しまいには相手を背負ってのリフティングで舐めプをする始末。趣味悪いなぁー。


 ようやく気が済んだのか、これ以上ないくらいの技術の差とそれ以上の体格の差を見せつけた。

 

 顔を真っ赤にして体中汗だくになって「ふっふっふ、まだまだだな、ボウズ、この北里司様に挑戦するなんざ100年はえーぞ」と調子こいている。


 もしもし、今の心拍いくつですか?180は行ってるよな、ゾーン4だぞ。


 ってか、100年どころか、あと1分もしないうちに、動けなくなるだろお前。


 すると、その男の子が悔しさのあまりベソをかきながら、


「てめー、何言ってんだ、嘘ついてんじゃねーぞ!!司君がお前みたいなデブなわけねーだろ!!」とガチギレ。


 ヤバイ、ヤバイ、これ、ケンカになると思って、とりあえず仲裁に入る俺。


 その間もその坊や、「俺は、去年の決勝観て八王子SCに入ったんだ!!北里司の名前かたってんじゃねーぞ、このデブ!!!」と悔しまぎれの罵詈雑言。


 どうやら、この子、うちらの後輩らしいっす。

 

 すると、そのグループの一人がなんとなくどっかで見た顔。「って、確か、コウタ君?」と俺。


「あー、鳴瀬先輩だー」と言って近づいてくる我が後輩。


 まあ、学年3つも違うとほとんど交流は無いんだけれど、たまに合同練習で遊んだりもすることもあるんだ。


「えーっと、こいつは?」


「あー、こいつ颯太(そうた)っていうんですよ。去年のビクトリーズとの決勝観てうちのクラブに入団したんです」とコウタ。


 そしてそこでふと気付くコウタ。


「あれ、司君じゃないですか?」


「お、おう、元気してた?」と司。


 そりゃ、知ってるわな、お互い近所で同じサッカークラブなんだから。


「司君、もしかして、太った?」と遠慮のない小学4年生。


「お、おう、成長期って奴だな」と苦しい言い訳をする司。嘘つけ。


 すると、後ろの方でも、なんか見かけた顔の奴が……どうやらそいつも後輩だ。名前は分かんないけれど。


 その子がなにやら、例の生意気な颯太という子に説明している。

 

 …………と、いきなり、「おまえ、何、太ってんだよ!!ふざけんなよ!!」と別の角度からガチギレする颯太君。いいぞ、もっと言ってやれ。

 

 大変傷ついた顔で口をパクパク動かす司。


 二の句が継げないとはまさにこのことだな司。(ゲラゲラ 


https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16817330663940081051


 そこで遥が、「まあまあまあまあ」となかに入っていろいろと説明をする。


 まあ、きっと、膝を怪我してなんやらかんやらいうんだろう。


 それでも恨めしそうに司を見る颯太君。


 これでも一応痩せてきてるんだぞ、ホントホント。


 まあ、でも、ケンカしてもサッカーすれば仲直りできるってのがフットボーラーのいいところだ。


 司も小さなファンの夢を壊してしまったことに対する罪悪感もあったのだろう。


 俺たち6人は、八王子SCの後輩たちとミニゲームをすることになった。


 もちろん司と颯太って子は一緒のチームにしましたよ。


 そして司は颯太君に対して、これでもかってくらいの接待プレイ。


 足元に優しいパスをするのは当たり前。


 ゴールキーパーまで交わしてからのごっさんパスに司の十八番のベルベットパスまで。


 お願いだから一度でいいから俺にもやってくれないかな。それ。

 

 そして、ゲームが終わるころにはすっかり司のとりこになってしまった颯太君。


 ゲームが終わると、肩車されてニコニコのご帰還だ。

 

 まあ、こいつ、子供の扱い上手だからなー。


 しかも、翔太から、ビクトリーズでも去年の優勝の立役者だと聞いて、一気に尊敬のまなざしになると、「司さん、あのフリッパーズからもゴールしたんですか?」と颯太君。


「あったり前よ、誰だと思ってんだよ、司さんだぞ。ちなみに2ゴール1アシスト……いや実質2アシストだな、ありゃ」とドヤ顔の司。


「すっげー」と目をキラキラさせる爽也君。


「ちなみに東京ダービーでも点取ってるからさ、俺」と。


「マジですか、司さん、SC東京からも点を取ってるんですか!!」


「おう、ドッペルバックだぜ颯太」


「ドッペルバックって何ですか?」と颯太君


「ドイツ語で2得点って意味だよ」


「すっげーや、司さん」


「お前も今度の試合でドッペルバックやってみ」と司。


「うわー、俺、2得点なんてできるかなー」と颯太君


 もしもし、小学4年生から褒められて、そんなに自己肯定感を満たしたいのですか、司さん。


 今度から頑張ったらちゃんと褒めてあげようと思った。

 

 なおも二人は話をしている。


「なぁ、颯太、司さんじゃなくて司君でいいよ」


「あの、じゃあ、司君」


「おうよ!」


「あ、あのさ司君、じゃあ今度、試合見に行ってもいいですか?」


「もちろんいいぜ、ただ、まだ日程が決まってないから、分かったらクライマーさんに伝えとくよ、颯太」といつの間にか名前で呼び合う仲になっていた。


 こういうところ、そつがないんだよなー。


 すると、人数が集まって来たので、俺と司は試合から外れてベンチで一休み。


 後輩たちのプレーぶりを見学することとなった。


「どうだ、膝の調子は」と司、


「そっちは」と俺、


「悪くないな」と司、


「俺も順調だ」と俺、


 そこに遥も加わって来た。


「結局、あの颯太って子、デブでも北里司はかっこいいっていってたわよ」と遥。


「そりゃ、ありがとうと伝えておいてくれ」と苦笑する司。

 

 すると、莉子からのパスを受けてシュートを決める翔太。


 それを見て司は、「ってかさ、なんで、翔太を呼んだんだよ」と遥に聞く。


「えー、なんで、そんなこと聞くのー」と遥はにやにや。


「だって、いきなりじゃんかよ、翔太を俺んちに呼ぶだなんて」


「えー、司、翔太のこと嫌いなの?」と遥。


「いや、嫌いじゃないけどさ……」


「翔太いい子じゃん、司の事好きだし、都饅頭もお土産に持ってくるし」


「そ、そういうことじゃなくって」


 すいません、それを真横で聞いている俺はどういう反応すればよろしいのでしょうか?


 と、そこで、「莉子から頼まれたの」と遥。


「莉子から!?!?」と司。


「にっぶいわねー、あんた、今日バレンタインデーよ」


 そこまで言われてやっと気が付く司。


「あ、ああ、あー、なるほどねー」


 見ると、莉子と翔太がゴールを決めて仲良くダンスを踊っている。


 なかなか可愛いぞ、似合ってる、似合ってる。


 ものすごい安堵した表情の司。


 よかったですね、上司。とりあえず、心配の種が一つ減って。


「ってか、神児!!」といきなり遥さん。


 えっ、あの、なにか今までのやり取りで何か粗相がございましたか?


「は、はい」と俺。


「弥生から頼まれごと。あとで弥生が話したいんだってさ」


「お、俺がですか…………」

 

 その3に続く!!

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