第65話 シャカリキ!!ペダル その4
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2010年1月2日 AM1:30
「一番坂は、一番やぁぁー!!!!」
司の叫び声で目を覚ました。
「えっ、えっ、えっ、ナニ、ナニ、ナニ!?!?」
突然の出来事であたりを見回す俺、あれ、ここ、どこだっけ?
「なぁ、テル、一緒にフランスに行こう」
と俺の手を握り司。
いやいやいやいや、俺、神児だし、そもそもなんでフランスなんか!?!?
「神児、一緒にツールに出よう。俺たちはツールに出なくちゃいけないんだ!!!」
司はすっかり目を真っ赤にして感極まってしまっている。
見ると曽田正人先生の「シャカリキ!」の最終巻が…………ああ、こいつ、全部読み終わったんだ。
「その前に、沖縄だ!!、11月、沖縄に戦いに行くぞ、なあテル」
いや、だから俺は神児だって。
そりゃ、確かに、この「シャカリキ!」ってマンガ、熱くてめっちゃ面白いけれど、そんなにハマるか?司!?!?
ちなみに俺はワイド版の4巻を読み終わったところでおねむの時間になりました。
結局あの後、いったん家に帰って着替えを持ってから、司の家で泊まることになったのです。
前の世界ではちょくちょくウイイレやるために泊まることはあったんだけれど、ここに来てからは初めてだったかな。まあ、お正月だしたまにはいいよね。
いうても、司の部屋にこもってからは、ずーっとこのマンガを見てたんだけれどさ……
まあ、ロードと競輪の違いは分かったし、ロードレースの内容も分かったけど……しかし、ここまでハマるものかねーと。最終回を二度読みしている司を見る。
司は、「一番坂は、一番やぁぁー!!」とまた叫び出す始末。
その途端、ガチャっと部屋のドアが開き、「うるさい!!何時だと思ってんの、ご近所迷惑でしょ!!」とガチ切れの司のかーちゃん。
なあ、司、俺達、そろそろ三十路だぞ。いい加減に落ち着こうや。
ってか、こいつ、こっちに来てから時間に立つにつれてどんどんと、肉体の年齢と精神の年齢が近づいてきているようになっている。
まあ、有りたいていに言えば、幼くなってるんだよねー。もしかして俺もか!?!?
すると、司のかーちゃんの陰に隠れて、司のとーちゃんがニヤッと笑っていた。そしてその手には……渡辺航先生著の「弱虫ペダル」が………
「司、これも読んどけ」そう言って、親指を立てて部屋を後にするお父ちゃん。
俺、もう、寝ますよー。
…………翌朝、司は「シャカリキ!」と「弱虫ペダル」のマンガにまみれ寝ぼけながら「ラブリーチャーンス ペタンコチャーンス」とわけのわからん歌を口ずさんでいた。怖っ!!
というわけで、司が起きてきたのは既に朝の10時過ぎ、俺はその間に顔を洗ってご飯を食べて、司の部屋にあったマンガを読んで……なるほど、こりゃ、ハマるわ。と納得した。
いやー、昨日はちょうどキリがいいところで読み終わったんだ。最後のツールド沖縄の話になったら俺も夜更かししちゃったかもと司のお母さんが入れてくれたコーヒーを飲みながら全巻読破。
まあ、「弱虫ペダル」はまだ途中だけど仕方がない。ってか、早くあっちの世界に戻って、最終巻まで読んでみたいと思った。
……まさか、2022年の世界でまだ続いてるわけないよね。
というわけで、司に付き合わされるていで早速サイクリングに行くことになった俺。まあおじさんもいるけれどね。
「ねぇねぇ、父さん。今日はどこ行くどこ行く?」とはしゃぐ司。
「そうだなー。司、海と山どっちがいい?」とパパ。
えっ、山は分かりますけど、海って……
「えー、海、行けるの?」
「ああ、海、行けるぞ」
「じゃあ、海行く」
「よし分かった」
と俺を置いてけぼりに行き先が決定した。えーっともしもし、それって今日中に帰ってこれるんですよね。もうお昼の11時ですよ。
すると、俺たちはおじさんから自転車用の防寒着を貸してもらい、正月の多摩川沿いをひたすら海に向かって走ることになった。
みると、今まで気づかなかったけれど、海までの標識があるのな。多摩川。知らんかった。
日野橋を過ぎると、「おやじー、海まで40㌔切ったぞー」とテンションノリノリの司。
正月の風は冷たいけれど、防寒手袋に耳当てと防寒タイツやらなんやら。ヒートテックの下着まで貸してもらって、意外と暖かい。
ロードの防寒着ってすごいのな。とちょっと感動してしまった。
しかも、日野橋をすぎると、ほぼ一直線。信号が全くないため時速20㌔で走ると、ほぼほぼ1時間で20㌔近く距離が進んでいる。
しかも路面が一般道に比べてさらにきれいに舗装されている。氷の上を走っていると勘違いしそうなノーストレスな走行感。こりゃ、すげーな。
すると、司が「なあ、親父、坂は無いのか、坂は!!」とまだロード乗って二日目だというのに生意気にもヒルクライムをしたいと言いやがった。
「しょうがないなー、司は」と言いながらも、ご満悦のお父ちゃん。すると、「じゃあ、ちょっと寄り道するぞ」と言って、府中四谷橋を聖蹟桜ヶ丘方面に渡った。
しばらく走ると、聖蹟桜ヶ丘の駅が。
司のとーちゃんが「じゃあ、こっちなー」と言って左折をして桜通りに入る。しばらく走ると上り坂になる。きっつー、なんじゃこりゃ。
司もピーピーいいながら、何とか登っている。なんかヒメヒメうるせーぞ司。
すると、司のとーちゃんも「カントリーロード、この街ー」とか歌って
る。親子そろって似ているなこりゃ。とあきれた様子で見てると、
「こりゃ、失礼」とおじさん。「あのさ、神児君、ジブリの耳をすませば観たことある?」といきなり。
「え、ええ、そりゃ、ありますよ」と坂道をちんたらちんたら登る。
「ここ、映画のロケ地よ」
「…………ええええー、あの、雫とあのボーイフレンドの」
「そうそう、あの二人乗りのシーン、ここだよ」
おじさんに言われてあたりを見ると、ああ、なんか見覚えあるぞ、ここ。
そして遠くを見渡すと多摩の景色が視界一杯に広がっている。おおおー、すっげーや、ちょこっと走っただけでこんな絶景に巡り合えるだなんて。
「司も見ろよ」
すると司は顔を真っ赤にして今にも倒れそうになっている。
「あきらめて降りろよ司」
すると司はプルプル震えながら、「あ、足ついたら負けなんや」となれない大阪弁。お前一体誰よ。
やっとのことで坂を上り切り、司も満足したのか自転車を降りて景色を見渡す。
おもわず、「すっげー」と司。
冬のキンと冷えた空気の中、関東平野のはるかかなたまで見渡せる。こりゃ、絶景だ。
「ちょっとこっち来てごらん」とおじさんに言われてロータリーの反対側に回ったら、おや、まー富士山がきれいなこと。
「おおー、富士山だー」と司も感動している。
するとおじさんが自動販売機でホットの缶コーヒーと買ってくれた。
「あ、ありがとうございます」
「……俺のは?」と司。
どうやら缶コーヒーを買ったのはおじさんと俺のだけだった。
「お前は、これだ」とおじさんは持ってきた水筒を渡す。
「ナニコレ、ポカリ?」と司は受け取りじゃぼじゃぼ揺らす。
「いや、バーム」
「バーム!?!?」
俺も聞いたことが無い。なんすかそれ、新手のスポーツドリンク?
「ダイエット飲料。それ飲んで有酸素運動すると効率よく体脂肪が燃える」
「まっ、まっ、まじでー!!」と司。
「ホントなんすか?」と俺。
「ホント、ホント、引くくらい落ちる。おじさんの体で試したから」
そう言われちゃ、もう信じるしかない。
「自転車乗りの間では有名よ。体重落とす時、ロング・スロー・ディスタンスでバームとプロテインを飲む」そういってVサイン。
「でも、おじさん、思ったより落としすぎちゃって……」そういってスリムなお腹を見せてくれた。
「いいじゃん、スリムでも」と司。
「いやー、体脂肪10%切ると風邪ひきやすくてさー」とおじさん。
「えっ、親父、体脂肪10%切ってんの?」
「ああ、そーだよ。ちなみにお前は?」
「……30%切ったか切らないかくらい」と途端に暗い顔。
「まあ、バーム飲んで自転車乗ってりゃ、ワンシーズンで落ちるよ、そんくらい」
「体脂肪20%落とすのがそのくらいなんですか?」
「うん、自転車のトレーニングで一番簡単なトレーニングよ体重落とすのなんか。ツールの選手とか2%3%の世界だもん」
「そ、そうなんですか?」
「うん、だって、トレーニングすると勝手にどんどん落ちるからね、自転車は」
「だってさ」と俺。
司は目をキラキラさせながらバームをゴキュゴキュ飲んだ。
聖蹟桜ヶ丘の丘を降りてから、またひたすら多摩川沿い。するとなんだかでっかい競技場が……
「あれ、何の競技場でしたっけ?」と俺。
「アレは、競技場じゃなくって、競馬場だよ神児君」
「……あーあー、府中競馬場だ、ああ、はいはい」おじさんに言われて初めて気が付いた。そういやそうだ、府中競馬場あるんだもんな。ってか、でっけーなー。
競馬をしに来たことなかったから見たことないけれど、キングアラマラオスタジアムや轟スタジアムや下手すりゃ、横浜国立よりもでっかいんじゃないのか?
「ちなみにおじさん、あそこ何万人くらい入るのですか?」
「えーっと、昔、入場制限無かった時にたしか20万人くらい入ったんじゃないかなー」
「……ぶっ」と司、「ハイ!?!?」と俺。
すみません、桁が一つ違いました。SC東京のアマラオスタジアムは4万そこそこ、横国で6万、俺の所属のハチスタは1万5千。……競馬ってすげーなー。
そんな事を思いながら走っていると、稲城大橋を越えたあたりで、「そこ曲がると今度はキングアマラオスタジアムだよ。見る?」とおじさんに言われた。
「いやー、このまえ来たばっかしだからいいかなー」と俺。
「だよなー」と司。
「りょうかーい」とおじさん。
……ってことは、俺は多摩川の向こう岸の山の上を見ると……おおー多摩っ子ランドの観覧車だ。
自転車で来ると結構早いな。
「思ったよりもはえーな」と司も。時計を見ると結構寄り道をしていたのにも関わらず、家を出てから1時間しかたってない。
「これ、自転車で行けんじゃねーの?」と司。
「うん、トレーニングにもなるしいいかもなー」と俺。
「うん、それ、いいんじゃないの?あー、でも荷物がアレかー」とおじさん。
いや、でも、ロッカーに置いてける荷物とか結構あるし、ちょっとこれは後で司と相談してみなくちゃ。
そんなこんなで、多摩川原橋を今度は川崎側に渡る。
「なんで、橋を渡るの?」と司。
「ああ、こっちに渡らないとあっち側、途中でサイクリングロードが無くなるんだよ」とおじさん。
「ほほーう」
そして相変わらず、同じペースで走る。
多摩川水道橋、小田急、東名高速、新二子橋、二子橋、東急、第三京浜……ってことは、アレだよな。
司もどうやら分かっているようだ。しきりに右側をチラチラ見ている。
……と、おおー、出てきた、出てきた、宿敵川崎フリッパーズの本拠地、轟スタジアムだ!!ってか、本当に多摩川沿いだな。
SC東京、東京ビクトリーズ、川崎フリッパーズ。ほぼほぼ多摩川沿いにあるのが分かった。なーるほど。
すると、ガス橋という看板が見えたと思ったら「今度こっちー」とおじさんはまた橋の反対側を渡る。
橋を渡ると今までよりも広いサイクリングロードになっている。「さあ、もう、あと10㌔も無いぞ」とおじさん。
「おおおー」と感動する司と俺。しかもなんか追い風になったらしく、ペダルをこがなくてもスピードが落ちない。
「気を付けろよー、歩行者優先だからなー」とおじさん。
「はーい」と俺たちは河川敷の景色を見ながらロードバイクを走らせる。
みると河川敷には野球やらサッカーやらテニスやらいろいろなスポーツをしている人がたくさんいる。
ここら辺になると河川敷もひろくなるんだなーと地形の違いをまざまざと感じた。
しばらく走るとサイクリングロードが終わる。
「じゃあ、こっから道が細いからな」おじさんはそう言うと、俺たちを先導して前を進む。
そして、ものの10分もしないうちに俺たちは海に出た。
「海だー!!」と司。
「海だな」と俺。
そして、その終点にドラマチックに神社の鳥居がある。
おじさんは俺たちに10円玉を渡して、「じゃあ、帰りも事故が無いように帰れるようお願いしなさい」と言って俺たちと一緒にお参りをした。
俺たちはなんか鳥居しかない変わった神社にお参りすると、来た道をそのまま帰っていく。
「おおおー、スピードが出る出る」と楽しそうな司。
「転ぶなよー」とおじさん。
帰りが追い風という事は、どうやら行きではおじさんがずーっと風よけをしていてくれてたみたいだった。
なにからなにまですみませんでした。
というわけで、八王子ー羽田間、往復5時間のサイクリング。延べ96㌔。本当に日没前に帰ってこれちゃった。ってかロードバイクってすごくない?
司の家に帰って来ても、意外と結構体が動く俺達。試しに司の家の庭でボールを蹴っても普通に動く。どういうことだ?これ?
「あー、それはきっと運動強度が高くなかったからじゃないのかな?ほら、100mダッシュするとすぐ疲れちゃうけれど歩く分には10㌔くらい歩けるでしょ」
「あー、なるほど」
「そうそう、ちなみに、これね」
そういっておじさんは昨日見せてくれたたまごっちもどきのハートレートモニターを見せてくれた。
するとそこには2500キロカロリーの文字が……
「今日一日で成人一日分のカロリーを消費できたね」とおじさん。
「まじで!?!?」と司。
「そういや、司、膝見せてごらん」とおじさん。
「えーっと、別に膝痛くねーぞ」と言って司が膝を見せると、なんか膝小僧がスリム。
「アレ……俺の膝こんな形してたっけ」と首をひねる司。
「いや、今のサイクリングで、ここら辺の脂肪が燃焼したんだよ」とおじさん。
「えっ、こんなんで、形代わるの?」
「ああ、だいたい脂肪って体の末端から燃焼し始めるから、サイクリングした後って手とか足とかの先っぽが細くなるんだよ。まあ、一晩寝たら戻るけれど」
「へー」と言いながらあちこちをまじまじと見る司。
「じゃあ、よかったら、司、神児君、おじさんの良く行く温泉でも行って、サウナでも入るか?」
「行く、行くー」と司。
「いいんですか?」と俺。
「いやー、自転車で走った後のサウナが楽しみで走ってるようなもんだからさ」とおじさん。
「じゃあ、お願いします」と正月早々、二日続けて司の家にお泊りすることになってしまった。
寝る前にかーちゃんから、「さすがにあんた、ずうずうしいわよ」とお叱りの電話をいただいてしまいました。
そういや、温泉に行った時、司がしきりに自分の体を鏡に映して色々チェックしてたのがちょとおかしかった。
けど、確かにここ最近細くなったようなきがするんだよなー。
まあ、がんばれ司。シーズン開幕まであと3か月だぞ!!
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