第38話 ミッション ぽっしぶる その2

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「まあ、あらためて見ると、随分と立派なところよねー。これで近かったら文句ないんだけれど……」と遥。


 これから何年もお世話になるグランドの最初の印象をお聞かせいただきました。



「ってかさ、今日、早くおわったら、あの観覧車乗ってみない?ねえ神児、司」と浮かれモードの遥さん。


 司の方を見てみると、急に顔がパッと明るくなって「いいねー、遥、そのアイデア。パパーッと終わらせちゃって、他にも乗り物楽しまないか?」とノリノリの司君。


「ええー、いいのかなー練習に来たのに遊園地なんかであそんじゃって」とまんざらでもない遥さん。


「いいのいいの、この夏休み、サッカーと水泳しかしなかったんだから、一回ぐらい遊園地で遊んだってバチ当たんないよー」と…………


 そうだね、こっちの世界に来てぜんぜんデートとかしてないもんね。二人とも。


 よかったら俺、先に帰ろうか?

 

 そういう気も使えるようになった体は小6、頭は26歳の元Jリーガーの私。


 これでも上司の機嫌を取るのに結構気を使ってるんですよ。


 

 そんな風にぺちゃくちゃおしゃべりをしながら俺たちはグラウンドに着く……と、司一人だけ、監督のいるクラブハウスに向かって行った。


 その際、司が、「神児、とりあえず、この施設、遥に紹介してあげて」と言われたので、遥さんにビクトリーズのクラブハウスとその関連施設を案内させていただきました。


 

 いちおう、この世界では、まだ、ここには2回しか来てないけれど、ぶっちゃけ、前の世界では3年間びっちしお世話になっているので、細かいところまで案内できた俺、


 時折、遥から「えー、神児、ここって前から通ってたの?」とちょっと鋭いツッコミが入ったり入らなかったり……


 そうこうしているうちに、司たちと合流。


 

 で、監督と一緒にグラウンドに行きました。


 すると、「おーい、みんなー、集合ー」と、監督がみんなを集める。


 ぞろぞろと集まってくるビクトリーズのみんな。


 遥の紹介が始まった。


 まずは林監督が、

「それでは、ビクトリーズに新しく入ってきた仲間を紹介します。一ノ瀬遥さんです。みんなも知ってると思うけれど、今まで八王子SCにいました。来年から、ビクトリーズレディースに入るという事なので、それまで練習生という形で、このビクトリーズジュニアで練習をしてもらうこととなります。」


 すると、遥が言う。

「初めまして、一ノ瀬遥です。」と、ここで、


「わーい、遥ちゃーん」と翔太が手をぶんぶん振っている。


 遥も翔太を見つけて手を振り返す。ほほえましい光景だ。


「みなさん、初めてではないと思いますが、あらためて自己紹介します。一ノ瀬遥です。ポジションは今は右のサイドバックをしていますが、ボランチでもCBでもフォワードでも、チャンスがあったらどのポジションでもチャレンジしていきたいと思っています。よろしくお願いします」

 とペコリ。


 パチパチパチパチーと拍手。


 和やかな自己紹介の挨拶が終わった。


「じゃあ、みんな、練習に戻ってー」と監督が言ったところで、


「あ、ちょっと、いいですか?」と司。


 途端に空気がピーンと張り詰める。


 いやですよ、司さん、また変なこと言っちゃ…………



「川崎フリッパーズと練習試合が決まりました」いきなりぶちかます司。

 とたんに、ピキーンと空気が張り詰める、多摩っ子ランド天然芝サッカー場。


「おい、マジかよソレ!!」と目が逆三角形になった健斗。


「やって、やんよ、やってやんよ」となんだか物騒なことをブツブツつぶやく近藤君。


「もう、負けない」とこぶしを握り一人決意を表明している翔太。


 ビクトリーズの本気というものを今、まざまざと目の当たりにした瞬間、


「いや、八王子SCとなんですけれどね、試合決まったの」と司。

 

 その瞬間、「はーい、撤収、撤収ー」とてをパンパン叩きながら虎太郎が、


「なんじゃ、そりゃ」と急に悪態をつき始める健斗。


 ぞろぞろと、元居た練習場所に帰ろうとするみんな。

 

 と、ここで、司が、


「実は、うちのチーム、欠員が出ちゃって、メンバーが足らないんですけれど、誰かヘルプで入ってくれる人いませんかー」


 途端に、ピタリと足が止まり振り返るビクトリーズのみんな。


「マジか、司」と健斗。


「もちろんマジでーす」あれ、いつもよりもだいぶ軽いね司君。


「もちろん、おめーも出るんだよな!!」


「膝の様子見ながらだけど、いまんところ、出るつもりだよ」と司。


「神児、お前は!!」と健斗。


 あっれー、俺、もう呼び捨てですか?三岳君。俺、ちゃんと君付けしてるよね。


「まぁ、体力が続く限り」


「出るに決まってるだろうがー!!」と声高々に健斗が手を上げる……と、


 じゃあ、


「俺も」


「俺も」


「俺も」


「俺も」


 と次々と手を上げるビクトリーズの皆さん。


 司が前回あおった成果が出ています。


「ってか、八王子SCの試合に僕たち出ちゃっていいんですか?」といつも冷静なGKの南くん。


「ああ、その件に関しては、川崎の監督に、いま、ちょっと、うちメンバー足らないんで、助っ人頼んでもいいですかーって聞いたらオーケーもらえました。」とVサインの司。


「おおおおおー」とビクトリーズの皆さん。


 さすが仕事が早い、司上司、昨日の今日でもうここまで話を進めちゃっている。


「えーっと、うちのチーム的にも、いいんですか?」と今度は林監督に確認する南君。


「うん、別にいいよ。うちのユニフォーム着なければ。あと、向こうの監督さんのいう事もちゃんと聞いてね」と林監督。


「ほほーう」とみんな。



「あー、でも、あくまでも、八王子SCと川崎フリッパーズの練習試合という事なので、基本、うちのメンバーを優先しますけれど、それでもいい?」と司。


「全然、オッケー」と健斗。ほかのみんなもうんうん言っている。


「一応、川崎さんから、今回は11人制で20分を少なくとも3本やりたいって言ってるんですよね」


「ふんふん」


「場合によっては4本でもぜんぜんいいらしいです。あと、人数が集まらなければ8人制でもいいって了解とりましたー」と司。


「ほうほうほう」


「とにかく、川崎さん、ビクトリーズにあんな勝ち方しちゃったんで、練習試合組むの今、とっても苦労しているみたいなのです。なので、手助けするつもりで全力でぶっ倒してください。ここで負けたら生涯敗者ですよ、みなさん」


 と、最後にとんでもない煽りを入れる司君。


 だから、そういうのやめようって……


「上等だよこのやろー!!」三岳健斗の叫び声が多摩っ子ランド天然芝サッカー場に響き渡った。



 ちなみに試合予定は8月31日、日曜日の午前中だって。

 

 こうして、俺たちの夏休み最後の日の予定が埋まった。

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