第257話 Licht~光(17)

雷が落ちたかのような歓声と拍手が巻き起こった。



真尋は我に返りゆっくりと観客たちの方を見た。



たぶんこのホールに来ている人達全員がスタンディングオベーションで



自分の演奏を称えてくれている。



しばし呆然としていると、マエストロがゆっくりと壇上を降りて真尋に握手を求めてきた。



「ありがとう。 本当に素晴らしい『皇帝』だった、」



そう言ってくれたのに、何も答えられず小さく頷くだけだった。



コンマスからも握手を求められて、すごい力で左手を握られた。



その力だけで彼の感動が伝わってきた。



拍手が全く鳴り止まない中



真尋は大きく深呼吸をして、深々と頭を下げた。



顔を上げたとき



彼の顔が歪んだ。



唇をかみ締めて、もう一度小さくお辞儀をした。




「もー・・感動! ほんまにすごい・・」



南も、感動で涙、涙だった。



志藤も真太郎も手が痛くなるくらい拍手を続けた。




これは。



たぶん・・真尋のこれからの人生が変わる。




志藤は真っ先にそのことを思った。




それほど



素晴らしいコンチェルトになった。




真尋は舞台袖で祈るように待っていた絵梨沙と竜生を見つけて



二人を一気に抱きしめた。



「真尋・・」



絵梨沙は涙が止まらない。



真尋は無言で竜生の頭をそっと撫でた後、そこにあった大きなタオルで顔を覆った。



そして



嗚咽を漏らして



泣き出した。






シェーンベルグは安心したようにぐったりと目を閉じた。



「おじいちゃん??」



カタリナは心配して手を揺すった。



「・・もう無理よ。 病院に!」



カタリナの母は彼女に言った。




すぐに救急車が呼ばれて、シェーンベルグは劇場を去った。



それを知らない真尋はしばらく号泣した後、スタッフから取材の申し込みが殺到していることを告げられた。




「・・すんません。 ちょっと。 顔を洗ってきます、」



真尋は少し落ち着いてそう言った。



まだ心臓がドキドキしていた。



冷たい水で顔を洗って鏡を見る。



ピアノを弾いていたのは



自分ではなかったんじゃないか、と思えるほど



信じられない力が沸いてきた。



タオルで顔を拭くと



その手が震えていることに初めて気づいた。



手だけでなく



膝もガクガクに震えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る