第254話 Licht~光(14)
竜生はミルクをいっぱい飲んで、すやすやと寝込んでしまった。
オープニングのオケの大音響がすぐそこに聴こえても、まったく起きないほどぐっすりと眠っていた。
真尋に似て
神経は図太いのね
絵梨沙はその寝顔を見てふっと微笑んだ。
真尋は相変わらず眠るように目を閉じて、ジッと遠くに聞こえるハイドンに耳だけを傾けていた。
音楽院を辞めて
シェーンベルグと出会って
ちょうど2年が過ぎていった。
本当に自分の周りのたくさんのことが変わっていった。
ピアノも
プライベートも。
一番変わったのは
自分のピアノに対する気持ちかもしれない。
ピアノで生きていくと覚悟を決めた。
そのために
必死で頑張った。
オープニングの交響曲の途中
シェーンベルグは痛み止めが切れてきたのか、苦しみ始めた。
「おじいちゃん、もう無理よ・・」
カタリナは囁いた。
「大丈夫だ・・」
「痛み止めをもらってきたから、飲みましょう。」
「・・薬を飲むと眠ってしまう。」
顔を歪めながらそれを拒否した。
カタリナは祖父の気持ちが痛いほどわかって、ぎゅっと手を握った。
「もうすこし・・もうすこしだ、」
彼は
自分にも言い聞かせるようにそう言った。
「スタンバイをお願いします、」
スタッフが真尋に声をかけた。
バチっと目を開けて、スクっと立ち上がった。
絵梨沙もスヤスヤと眠る竜生を抱いて立ち上がった。
拍手とともに
真尋はまぶしいステージへと足を踏み入れた。
自分の力でない
何かに背中を押されるように。
「え・・」
真太郎と志藤はその真尋の風貌を見て驚いた。
頬がこけ、ヒゲや髪形は変わらないものの
真尋ではないのではないか???
と一瞬目を疑ってしまうそうなほどだった。
痩せてしまったことが一見してわかった。
「・・だいじょぶかいな、」
志藤は思わずひとりごとを言ってしまった。
その姿で
この数ヶ月間の彼の壮絶な孤独な戦いを思い知る。
マエストロと握手をしっかりと交わしたとき
真尋はぎゅっと唇をかみしめるように全身に力を入れた。
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