第9話 初配信の日は決まっているらしい
そしてVTuberになることを決意した俺は、彩花を通じて事務所とやり取りし……数カ月後、俺はそこの偉い人と会うことになったんだ。
彩花は「全然怖くない人だから大丈夫だよ! そんなに心配なら私がついて行こうか?」と軽い感じで言ってたから、そんなに恐れる必要もないだろう……ちなみにその彩花の提案は断っておいた。幼馴染同伴で行くのは、流石に恥ずかしいからな。
──で、そんなこんなで迎えた当日。俺はスカイサンライバー事務所の前にたどり着いていた。ここはネットとかにも知られていない場所らしく、彩花からも「事務所の場所とか喋っちゃダメだよ!」と念を押されていた……まぁ、俺がそんなことする訳ないけどな。
「よし……行くぞ」
覚悟を決めた俺は、大きなビルの中に入っていった。情報によると、このビルの9階に事務所が入っているらしい……俺は丁度来ていたエレベーターに乗って、その階まで上がっていったんだ。
ゴウンゴウン……チーンとエレベーターを出ると、目の前にはひとつの白い扉。そして隣に置かれている小さなソファーには、社員証みたいなものを首にかけている、Tシャツ姿の若い男性が座っていた。あ、もしかしてこの人が……?
「……おっ、こんにちはー」
俺に気づいたようで、男性は挨拶をしてくる。俺はたどたどしく、挨拶を返した。
「こ、こんにちは。あの、俺……」
「話は聞いてるよ。君が類くんでしょ?」
「あっ……そうです」
どうやら俺のことを知ってくれているらしい。そして俺の正体を知った男性は、にこやかに微笑んでくれて。
「ふふ、あのレイちゃんとの回は最高だったね。俺、久しぶりに腹抱えて笑ったよ」
「あ、ありがとうございます……! 見てていただけたんですね……!」
「うん、もちろん。アーカイブで全部見たよー。感想とかたくさん言いたいけど、ここで話すのも何だし……場所を変えようか。ついて来て?」
「は、はい!」
言って男性は立ち上がり、カードキーっぽい物でその扉を開けて、俺を中へと入れてくれたんだ。
──
そして俺は彼の後ろをついて行き、小さな会議室のような場所に案内されたんだ。
「そこ、座ってていいよー」
「あ、はい!」
促されて俺はオフィスチェアに座る。そして男性は対面側に座り、丁寧に自己紹介をしてくれたのだった。
「じゃ、改めて……俺は
「しゃ、社長……!? そんなトップの方だったんですか……!?」
俺はのけぞって驚く。彩花からは『偉い人』としか伝えられてなかったため、ここまでトップの人が対応してくれるなんて、全く想像していなかったんだ……そして塩沢さんは笑顔で首を振って。
「ああ、いやいや。そんな全然かしこまったりしなくていいから。俺の顔でコラ画像作って、動画のサムネに使ったりするライバーもいるぐらいだからさ?」
「そ、そんな無礼な……」
いくらVTuber会社のトップとはいえ、そんなことを許すのは心が広すぎると言うか……というかライバー側が頭のネジ飛んでない? それくらいするの普通なの? もう俺の常識が通用しない場所に来てしまったというの?
「あはは。それで、こっちがスカウトしたぐらいだからさ。もう類くんの合格は決まっているんだけど……どうして急に心変わりしたんだい? 君がVTuberになる気は全然ないだろうって、レイちゃんの方から聞いてたんだ」
「あ、えっと、それは……伊吹さんと話したからですかね……?」
俺が伊吹さんの名前を出すと、塩沢さんは「おお」と興味深そうに頷いて。
「なるほど。基山伊吹ちゃんと話したんだね。どう? 彼女、氷の国のお姫様みたいだったでしょ?」
「ええ。すごく……そんな感じでした」
俺が心を込めて言うと、塩沢さんは笑ってくれて。
「ははっ! だよねー。それで伊吹ちゃんからなんて言われたの?」
「イヤイヤやるなら入らないでくれって、はっきり言われました」
「あはははっ! 流石伊吹ちゃんだ!」
塩沢さんは手を叩いて、更に笑いを見せた。きっとその光景が容易に想像できたのだろうな。
「……でも、彼女はレイが俺のことを放送で自慢してることを教えてくれたんです。そして、そこまでしてレイが俺をVTuberに誘う意味を考えてみろって言ってくれたんですよ」
「ほー、なるほどねぇー。それでレイちゃんの反応は?」
「類には才能があるから、一緒にやってみないかって言ってくれたんです。それからは……まぁ上手く乗せられたって感じですかね?」
俺は笑いながら答える。自分で言うのが恥ずかしかったからだ。
「なるほど……いやー凄いね。一度決めたことなんて、簡単には変えられないからさ。それが出来た君は、確かに才能があるかもしれないよ」
「いやいやそんな……! 俺が根負けしたからですよ」
「ははっ。まぁやってみればきっと、レイちゃんの言いたかったことも伝わるんじゃないかな?」
「まぁ……そうかもしれませんね」
そして塩沢さんは笑顔で頷いて、いくつか紙の資料を机に置いたんだ。
「よし。それじゃ、早速本題に入っていくけど……類くん。実は君の初配信の日はもう決まっているんだ」
「えっ、それはいつですか……?」
そしたら塩沢さんは俺に3つの指を見せてきたんだ。ああ、3週間後か……いや、3か月後って可能性もあるよな…………?
「3日後だよ」
「みっ…………!?」
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