第9話 恐怖!悪人の砦!

 「ヤスオ殿!!ご苦労様です!何という力!何という速度!げに恐ろしき召喚獣でございますな!!」


 盗賊団を追いかけまわし跳ね飛ばしして戻って来た靖男に向かって、ベンギウムが興奮気味に言う。

 悪魔の車は、だろ?と言わんばかりに車体を震わせた。

 

 「しかし、こいつらをこのままここに放置して行くって訳にもいきませんよね?」


 「そうなんですよヤスオ殿!こいつらを引っ立てていくために人数を割かれてしまうのは残念なのですが、それでも、このまま放置してまた悪さをされても困りますゆえ致し方なしです」


 「うん、そうですよね。なに、いざとなれば私の召喚獣に頑張ってもらいますよ!」


 「そう言って頂けるとありがたい!頼もしいばかりですよ!!」


 ベンギウムが力強く言う。そんな訳で衛兵隊の一部は襲って来た盗賊団を連れて街へと戻らざるを得ない状況になった。

 数を減らした衛兵隊と悪魔の車に乗った靖男一行は、それでも当初の目的通り衛兵部隊が消息を絶ったと言うアジトへ向かうのだった。

 


 「ううむ、まさか、それほど大規模な砦が存在していたとは」


 アジトが近いという事で、部隊は一旦待機し斥候を走らせたのだが、しばらくして斥候が傷ついた兵士と共に戻り報告した内容に部隊を率いる隊長は驚愕した。

 斥候が連れて来た傷ついた兵士は、なんとアジト捜索に出た衛兵隊であった。

 傷ついた兵士は捕らわれたのだが、仲間の手助けで何とか脱出したのだと言う。どうやら、ここに来る途中に遭遇した盗賊団は逃げた彼の捜索隊だったようだ。

 

 「ええ、三方を岩山に囲まれた砦に、盗賊の数は少なくとも百人はいます。仲間のみならず近隣の村から攫われた女性たちもいて、皆、地下の牢やに閉じ込められています。攫われた女性は奴隷商人に引き渡されるまで一度も牢の外には出されないそうです」


 傷ついた兵士が言う。


 「むう、それでは協力を要請するのも難しいな。しかし、それほどの砦、今の我らの戦力では攻略は難しいと言わざるを得ない」

 

 話を聞いた衛兵隊の隊長は腕を組み難しい顔でそう言った。


 「よろしいですか?」


 「ヤスオ殿!なにか妙案が?」


 近くにいたベンギウムが靖男に詰め寄るように言う。


 「い、いや、妙案と言うほどの事も無いのですが。私の召喚獣で砦を攻めようかと思いまして。そうすると砦内部は非常に混乱すると思いますので、捕らわれている人になにかあったらと心配をしたのですが、捕らわれた皆さんが地下牢におられるという事でしたら、私も心置きなく召喚できますので」


 「むむ!そんな召喚獣がいるのですか!!お頼みできますか!!」


 今度は隊長が前のめりで言う。


 「ええ、念のため、自分も召喚獣と共に砦に入ろうかと思いますので、万が一、盗賊が外に出てくることがありましたら、そちらをお願いできますでしょうか?」


 「ええ、お任せください」


 「お願いしますね。念のため、彼も残していきますので」


 靖男は後ろに停まっている悪魔の車に、皆を守って欲しいとお願いした。

 悪魔の車は任せよ、と車体を震わし、衛兵隊はおお!と小さく声を上げる。


 「では、行ってきます」


 「お気をつけて」


 衛兵隊に見送られて靖男はアジトへと歩みを進める。

 静かに慎重に道を進むと、前方に岩山に囲まれた砦が見えた。石で組まれた大きな建物は、ちょっとした要塞であったが、中にいる人数や三方を岩山に囲まれる天然の要害である事などで奢っているのか、はたまた盗賊団と言うのは慎重さに欠けた連中なのか、理由はわからなかったが入り口の門は開け放たれており、その近くでは荒々しいカッコをした男三人が焚火を囲んで酒盛りをしていた。

 まだ、日も沈んでいないと言うのに不用心が過ぎるだろ、と靖男は思ったが、むしろ用心すべきは日が沈んだ後の方で、問題はこんな時間帯から門番をしてる奴らが酒盛りをしている事であった。 

 しかし、靖男にとってはそんな問題は些細な事なのであった。なぜならば、今回、靖男が呼び出そうとしているのは、靖男がホラー映画のみならず、すべての映画の中で最も愛する映画のホラーヒーローなのだから。

 

 「さあ、思う存分、暴れてくださいよ」


 靖男はワクワクして言った。

 期待に溢れる靖男の目の前、砦の前の広い空間は一瞬にして彼らで埋め尽くされた。

 

 「うぎゃ!!」

 「な、なんだ!!オメーら!!」

 「ぎゃぁぁぁぁぁ」


 酒盛りをしていた男たちの悲鳴が聞こえる。その場を埋め尽くした者達に襲われたのだ。

 その場を埋め尽くす者達、様々な格好をした青白い顔をした者達の群れ、そう、靖男が呼び出したのはホラー映画の金字塔、ゾンビに出て来るゾンビたちであった。

 

 「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!テンション爆上がりだ!!!」


 興奮が抑えきれない靖男。ゾンビたちはのろのろと歩き砦の内部へ侵入して行く。そう、このゾンビは、走らないゾンビなのである。靖男は走るゾンビも嫌いではなかったが、やはり映画としての完成度は走らないゾンビが出て来るオリジナルのドーンオブザデッド、邦題ゾンビに勝るものはない、と考えていた。

 靖男は周囲を歩くゾンビを愛でながら砦内部へ侵入する。


 「お!ウェディングドレスゾンビさん!こっちはナースゾンビさん!やっぱり生で見ると美しいなあ!おおお!!こっちの方はやけに頭が長いぞ!!!ここにはヘリコプターはないから安心して暴れて下さい!!」


 テンション高くゾンビたちに話しかける靖男、映画ゾンビの中ならば、調子に乗るなとSWAT隊員のピーターに怒られるところだろう。まあ、靖男ならば怒られた事にも狂喜乱舞する事だろうが。

 まあ、些かテンションにおかしなものはあるが、こうして靖男は無事にゾンビの群れと共に砦内への侵入を果たしたのであった。

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