20. 官製ハーレム

 紺色のワンピースに真っ白のエプロン、そして、頭には白いカチューシャをつけた彼女たちはうやうやしくベンに向けて頭を下げている。


 歳の頃はみんな十五歳前後であろうか、気品があり、美形ぞろいで、ベンは圧倒された。


「彼女たちはベン男爵の専属メイドですよ。何なりとお申し付けください。それと……」


 そう言うと、セバスチャンはベンの耳元で小声で、


「彼女たちはお手付きを期待しております。どなたでも夜にお部屋に呼んで大丈夫ですよ」


 と、言ってニコッと笑った。


「お、お手付き……」


 ベンは唖然とする。こんな可愛い女の子たちを自由にできる。それはまさにハーレムだった。確かに彼女たちのベンを見る目はどことなく熱を帯びているように見えなくもない。


「ダメだダメ!」


 ベンは首をブンブンと振り、


「いや、何なんですか、この好待遇? ただの男爵にここまでなんて話聞いたことないですよ?」


 ベンはセバスチャンに迫る。


「ベン男爵、あなたの持つお力はもうこのレベルなのです。女神から力を授かり、ドラゴンを瞬殺し、魔王から声をかけられる。もう、人類の未来を左右する要人なのです。このくらい大したことではありません。日替わりで彼女たちを楽しまれてください」


 ベンは言葉を失った。もちろんハーレムは男の夢だ。でもこんなあてがわれたようなハーレムなど興ざめなのだ。


 しかし、要らないと飛び出したら、きっと問題はもっと大きくなってしまうだろう。


 ベンは大きく息をつくと、うんうんとうなずき、


「分かった。この屋敷もメイドもいただいた。おい君! 僕の部屋まで案内してくれるかな?」


 と、手近なメイドに声をかけた。メイドは嬉しそうにピョコピョコと近づいてくると頭を下げ、ベンを案内する。


「心行くまでお楽しみくださいませ」


 セバスチャンはうやうやしく頭を下げた。



         ◇



 ベンは荷物を置いた後、一通り屋敷の中を案内してもらい、食堂にみんなを集めた。


 メイドたちはキラキラとした目でベンを見つめる。


「みんなありがとう。これからこの屋敷でみんなにはお世話になります。でも、僕はまだ子供です。堅苦しいことは無しに、楽しくできたらいいなと思います」


 パチパチパチ!


 メイドたちは嬉しそうに拍手をする。


「それから、エッチなことはこの屋敷では禁止だからね」


 ベンはくぎを刺した。


 すると、彼女たちはざわざわとなって露骨にいやそうな表情を見せる。


 なんと、みんなやる気満々なのだ。


「ちょ、ちょっとまって! 君たちなんて言われてきたの?」


 すると、みんな押し黙ってしまった。


 ベンはさっき案内してもらったメイドを近くに呼んで、聞き出す。


夜伽よとぎに呼ばれたら金貨十枚という契約なんです」


 ベンは思わず宙を仰ぐ。


 呼ばれたら百万円、毎日呼ばれたら月に三千万円。それは必死になるに決まっている。ベンはこの狂った屋敷を何とかしないと大変なことになると青くなった。


「じゃあこうしよう。みんなと仲良くしてよく働いた子にはご褒美として、夜に呼んだことにします。それでいいかな?」


 すると、女の子たちはパッと明るい表情になって嬉しそうに笑った。そして、


「あっ、ご主人様! ネクタイが曲がってます!」「ご主人様、御髪おぐしが跳ねてます!」「爪が伸びてるみたいです。今切りますね!」


 と、我先にベンに迫っては次々とアピールを開始する。


「うわ、ちょ、ちょっとまって!」


 ベンは若い女の子たちの甘酸っぱい匂いに包まれて、くらくらしながら前途多難な新生活を憂えた。



      ◇



 夕食後、自室でうつらうつらしていると廊下に人の気配がする。


 ベンはため息をつくと抜き足差し足でドアのところまで行って、バッとドアを開けた。


 きゃぁ! バタバタバタ!


 女の子たちが部屋になだれ込んでくる。


「夜は三階の廊下は立ち入り禁止! いいね?」


 ベンはそう言って女の子達を追い出した。


 油断もすきも無い……。


 ベンはウンザリしながら窓際に行く。


 これはどうしたらいいんだ? 眉をひそめながら何の気なしに月を見上げた。


 すると、そこにはメイド服が揺れている。


 はぁ!?


 なんと女の子が窓の外に張り付いているではないか!


 ベンはあまりのことにクラクラしてしまった。ここは三階だぞ。なんで居るんだよ!

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