第59話 あぁ人生に涙あり?


「はぁ~、生き返る~」


「本当にそうね~」


今、ワタシとジェニー姐さんは、仲良くお風呂タイム


温泉水に浸かって、今日一日の疲労をリセット中です



今ワタシ達がいる場所は、出立した公共休息場から100km弱離れた野営場


そこにユニットハウスを出して、早速入浴タイムを満喫しているのです



この野営場も一応公共休息場みたいですが、規模はザックさんたちがいた公共休息場ほど大きくありません


出入り口付近に管理小屋らしきものもなく、どうやら駐在員さんはいないようです


ちなみに、ここに来るまでに、公共休息場と思われる場所を2ケ所飛ばしてきました


普通の馬車は、1日で1つの公共休息場までの距離を進むようで、大体1日30kmちょっとを進むみたいです


馬車の平均時速が5km/hだと仮定して、6時間ちょっと移動時間がかかる計算になります


(実際は休憩時間とかもあるから、8~10時間かかるのかも)


ワタシ達はその3倍を進んだことになります


のんびりふたり旅のはずだったのに、通常の3倍の速さで進んでしまったようです


(なんだかワタシ達、赤っぽい流れ星みたい、だね?)


(ていうかアレ、赤というよりははむしろ、ピンクメインに見えるのはワタシだけ?)




今日の旅路は、1週間前のひとり寂しいトボトボ徒歩とは全くの別物でした


ジェニー姐さんはマウンテンバイク


ワタシは原付アメリカンバイク


自転車とバイクの混合ツーリング


ひとりじゃないですし、乗り物に乗っていました


(心細くなかったし、休日のレジャー感覚で楽しかった~)



移動することで周囲の風景も変わってきました


今までは背の高い草が生えていてほとんど何も見えなかったのですが、


街道を進むにつれて、草が徐々に低くなっていき、


この公共休息場に着くころには、


サバンナ気候とステップ気候の間、ちょっとサバンナ気候寄りみたいな感じの風景になっていました


(ツーリング中に周囲が見渡せるって、なんだか気分がイイよね)


ん?

気候?

ケッペン?




そんな気分のいいツーリングでしたが、走り出して早々はちょっと困惑しました


なぜか、バイクのワタシより、自転車のジェニー姐さんの方が早いという・・・



走ってきた街道は、きれいな舗装道路ではなく、未舗装でちょっと荒れた感じ


ただ土が踏み固められただけの道路です


だからちょっと油断すると、石ころや馬車の轍にハンドルがとられてしまい、


ズルっとコケそうになるのです


ゆえに慎重に、ちょっとおっかなびっくり走っていたワタシなのです



ジェニー姐さんも同じ状況だったはずなのですが、


たまに立ち漕ぎなんかしたりして、


ダート道を満喫していらっしゃるご様子でした



ワタシが通勤で使っていた、なんちゃってマウンテンバイクではなく、


もっと本格的なモトクロス自転車だったのなら、


きっと、ウィリーやドリフト走行なんかもできちゃってたかも、


そんな感じの走りっぷりでした


なんて思っていたら、ワタシの目の前でウィリーはじめちゃってたジェニー姐さん・・・


ホント、何でもできちゃう感じです


(亀の甲より何とやら・・・)

(っ!)

(いけないいけない、年齢ネタはタブーでした!)


なぜか一瞬振り向いて、ワタシに眼光鋭く『視線のレーザービーム』を飛ばしてきたジェニー姐さん


こういう時の女性の探知能力は侮れません


ていうか、ジェニー姐さんは【偏光サングラス】を付けているにもかかわらず、強烈な目力を感じます


ん?

億千万?

エキゾチック?




ちなみにワタシ、ツーリング前にこういうモノを用意したのです




【ヴィンテージハーフヘルメット ゴーグル付き 15,850円】



これはアレです。この原付アメリカンバイクを買ったときに同時に買ったヤツです


ちょっと茶色がかったグレーのヤツで、それっぽい雰囲気のヤツです



早速かぶってみたのですが、


『ブルっ』


「へ?」


帽子の時と同様、頭の上のネコミミさんが自動的に反応してしまいます


強引にかぶって、押さえつけてしまおうと思ったのですが、


『ブルッブル、ブルッブル、ブルッブル』


ヘルメットの中でずっとこんな調子で動いてしまい、お耳が痛くなってしまったので、


ヘルメットをかぶるのは諦めました


その代わりといってはアレですが、付属していたゴーグルだけは装着しました


(風で目が痛くなるし、ゴミとか目に入っても嫌だからね)



ワタシのその様子を見ていたのか、ジェニー姐さんが


「あなたが顔に付けているそれ、目を保護しているの?」

「私にも用意してくれると嬉しいわ?」



そんな感じでジェニー姐さんにもゴーグルをご用意


でも、ワタシと同じではアレなので、別のモノを探してみます




【偏光サングラス ツーリング・フィッシング用 2,990円】



これはアレです。よく自転車競技の選手が付けているようなヤツですね


ジェニー姐さんは自転車ですから、ゴーグルだと曇ってしまうかもなので、


ちょっと大き目なミラーレンズのサングラスをご用意してみました



「あら? あなたのそれとは違うのね?」

「でもこちらも軽くて良さそうね?」

「ありがとう」



そんな感じで【偏光サングラス】をつけていたジェニー姐さん


ジェニー姐さんの年齢に対する些か過剰なほどのナーバスさは、


その怨嗟の視線が【偏光サングラス】をすり抜けてしまうほど強力だったようです




そんなこともありながら、ふたりでツーリングをしていると、


ワタシ達とは違い、


『朝もはよから荷物をまとめてセッセとセッセと』出発していった馬車さんたちの後姿が見えてきました


(なんだか、ポマードべっちょりでエーちゃんな感じだね)


ん?

完全無欠?

一発屋?



それにしてもやはり、馬車の運行速度はかなりゆっくりのようです


見た感じ、徒歩と大差はないように感じます


ワタシ達はというと、ジェニー姐さんのペースに合わせた速度です


時速でいうと、20km/hは超えていない感じです




何度か馬車を追い越したり、2つほど野営地をスルーしたり、


軽くお昼休憩を挟んだり


そうこうしているうちに、視界に入る草原の草の背丈が徐々に低くなってきたかな?


そんなことを思っていたら、この野営地が見えてきたのでした



出入り口付近に管理小屋がなかったので、ただの開けた野営地だと思っていたのですが、


「今日はここの公共休息場で野営しましょう?」


「え? ここも公共休息場なんです?」


「ええ、ここには管理人も駐在員もいないみたいだけどね」


ジェニー姐さんからそんな情報がもたらされたのでした



マウンテンバイクと原付アメリカンバイクをワタシの【インベントリ】に収納し、


ジェニー姐さんとそんな会話をしていると、



「やぁ、薬師さまじゃないか!」


ジェニー姐さんに話しかけてくる、どこかで見たような気がする男性がいました


「ん? たしかあなたは、荷崩れを起こした?」


「そうそう! あの時は迷惑かけてしまったよ」


どうやら数日前に荷馬車を横転させるトラブルを起こしたおじさんのようです


「あの後すぐ、薬師さまたちもあの場所を出立したのかい?」


「いいえ、私達は今朝、あの場所を出てきたばかりよ」


「え? 今朝?」

「すると、俺は5日分を追いつかれちまったのか」

「1日荷馬車の修理に費やしたから、4日分か?」

「いずれにしても明日には追い越されて遥か彼方ってわけだ」

「ははっ、さすが薬師さまだ」

「俺はゆっくりのろまな荷馬車の旅路」

「今回の荷運びは楽勝だと思って請け負ったのに」

「ふたを開けてみたら予想以上の荷物の量で」

「しかも荷馬車を横転させて積み荷の一部を壊しちまうし、散々だよ」


ちょっと愚痴が混ざってきた荷馬車のおじさん


そのお顔は半泣きといってもいいくらいに悲哀に満ちていました




そんなことがあった今日一日


今はお風呂でそんなことを振り返っている、そんな状況です



「泣くのが嫌なら、か~」

「ワタシは恵まれているのかもね~」


「ん? どうしたの? 急に」


ワタシの独り言を拾ってくれたジェニー姐さん


「楽も苦もあって、後から追いつかれて、泣かないで歩いて」

「いや~、ご老公様の主題歌は的を射ているなぁ~と思って」


「ん? ゴローコー?」


「やっぱりワタシ的には、初代の杉さまと横〇正コンビが一番なんですよね~」


「あなたの言ってること、全く分からないのだけれど・・・」

「まあ、どうでもいいけどね」



温泉によるリラックス効果が出すぎたのか、それとも長湯による影響なのか、


物思いにふけりながら、どことなく上の空な感じで独り言ちるワタシと、


それにちょっと苦笑いしつつ、相槌とも不満ともとれる返答をするジェニー姐さん



ふたり旅初日のバスタイム


ふたりの声は、一日の疲れと共に、お湯に溶けるように消えるのでした


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