第60話 穴の主を案内役に

「はあ。ひどい目にあったな」


「ですね」


 俺はガラライと新しい案内役を抱え、穴を抜け出てきたところだ。今回は言われるより早く降ろしたが、なんだか不満げに見える。


 ま出口のゴーレムは起動しなかったが、手との戦いといい、タコといいまともな相手じゃなかったからな。中での出来事を思い返しているのかもしれない。


 俺もなんだか今までの戦いで一番どっと疲れた気がする。


 まあ、森を抜けるために使えそうなやつを見つけたしよしとするか。


「ラウルちゃん!」


「おにい!」


「ラウル!」


 タマミとアルカ、それにベヒが俺のことを呼びながらやってきた。


 どれだけ時間が経ったのかわからないが、ずっと暗がりにいたせいで不思議と長いこと会っていなかった気がする。


「あれ、ラーブは?」


「あそこにいるけど」


 アルカの言葉に少し先を見ると、ゆっくりとした足取りでにらむようにこちらを見ているラーブの姿があった。


「なにしてるんだ?」


「なんか、二人とも仲良くなってない?」


 そう言うと、ラーブは俺とガラライのことを交互に見比べるように見てきた。


 俺はそんなラーブを前にガラライと目を見合わせてしまう。


「ほら」


「そりゃ、まあ、色々あったからな。悪いやつじゃないってわかったし」


「ええ。ラウルさんはとても頼りになる人です。尊敬してます」


「尊敬って」


「中でなにがあったのさ!」


「い、色々だよ」


 俺の体をゆさゆさと揺らしてくるラーブ。


 そんな状態でも、他のメンバーよりは俺を信頼してくれているらしいガラライは俺のそばにピタリとくっついている。


 もう離れてもいいし、さっきは降ろしてくれと言っていたがすっかり懐かれてしまったらしい。


 ラーブのスキルの効き目で徐々に見た目の方に精神が変わってきているのだろうか。


 俺もこのままアルカの姿でいると変わるのか? って、ガラライよりは長いことアルカの姿だし、神のおかげで大丈夫なのかもな。


「まあいいや。で、その子は? なんとかオクトパス?」


 俺を揺らすのに飽きたのか、ラーブが俺の右手を指差しながら言ってきた。


 いや、揺らしにくかったのか。


 俺はタコの触手を引っ込める。


「これはヨーリンのスキル。で、ラーブ。とりあえずこいつを頼む」


 俺はそう言って触手から出てきた新しい案内役をラーブに任せた。


 それはちょうどよく男が起きてしまったからでもある。


「なにをしていたっけ? ん? どこだここ」


「OK!」


 ラーブの返事を受け、俺たちは少し離れた。


 突然の出来事に男は混乱したように手を前に突き出す。


「ま、待て。おい待て! 何事だ」


 しかし、ラーブが待つことはなく、男は叩かれてしまった。


 有無を言わせず、光を放ちながら少年は幼女へと姿を変える。


 そもそもあのまま案内させることなんてあの性格じゃ無理だろう。


 大人しくさせるにはこれが一番いい手段のはずだ。


「さて、一段落したところで、こいつは死神の手下。名前は知らないがガイドと呼ぶことにしよう」


「おい。僕ちんには」


「そして穴での主犯で」


「無視するな」


「この先について知っているらしい、森の出方も把握しているようだ。使えると思って連れてきた」


「話を聞け! 誰も案内をするなんて言ってないぞ」


「さあ、この森の出方を教えてもらおうか」


「だから言ってないぞ。というか、さっきからなんだこの声」


 やっと気づいたのかガイドは喉を押さえながら驚いた顔をしている。


 可愛らしい声に可愛らしくなった見た目。


 だが、中身の変化がほとんどない。


 ラーブの方を見るが、知らないといった様子。


 これはどういうことだ?


「スキルの効き具合は人それぞれということだろう」


「なるほどな。で、話す気になったか?」


「嫌だね」


 俺は優しい笑顔を浮かべると拳を振り上げた。


「ごめんなさい。話します。だからその手を下げてください」


 よほど俺の拳が痛かったのか涙ぐみながらガイドは言った。


 俺は虫を払ってガイドを立たせると先頭立って歩かせた。


 言葉通り、ガイドは森の案内をしてくれた。そのため俺たちは森を抜けることができた。


 が、最後の最後でなぜかガイドがツタに絡め取られた。どうやらそういうワナだったらしい。


「このまま行くか?」


「やめ、助け、おねが」


 泣きながらガイドが言ってくる。


「当たり前だろ? 助けてやる」


 俺はツタの部分を綺麗に切り落としガイドに絡まったまま解放してやった。


「お前は利用価値があるからな。助けないわけないだろ?」


 ガイドは顔面を青くしながら必死に笑顔を作っているように見える。


「あはは。じゃあこの状態は冗談ですよね? ここのツタって僕ちんが作ったんですよ? さっきの手とかと同じようにいやらし」


「ははは。冗談じゃないさ。色々とやってくれたからな。心から信頼してると思ってるか?」


「ま、まさか本当に? こわ、怖いよ? それでも死神を倒そうとする勇者か?」


「ふっ。勇者なんていないさ。それに勇者なんかじゃないさ。俺はただの冒険者だ」


 俺の笑顔にガイドは再びゾッとしたように泣きそうな顔で俺を見てきた。


「なんかおにい悪役みたいだね」


 アルカの言葉にもう少し優しく接してやろうかと悩んでしまった。


「い、いいから案内しろ。歩けるだろ」


 俺は誤魔化すようにガイドを先に行かせた。


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