第37話 大魔王との戦い

「神、そして神の従者よ。お初にお目にかかります。ワタクシは現在の魔王、ウランクの言葉を借りれば、大魔王をさせていただいているヨーリンというものです」


 登場から早速魔王を一瞬で消してみせた大魔王。


 カールした金髪、黒くヒラヒラした服に裾のふくらんだスカート。薄く開かれた目は赤い。今見せた挨拶も育ちのよさそうな雰囲気を漂わせている。


 今まで見てきたモンスターの中で一番人間に近い姿、いや人間そのものの姿をしている。


 だが、まず俺は言いたいことがある。


「誰が神の従者か!」


 俺は決して神の従者なんかじゃない。


「あら、違うんですか?」


「違うわ! 俺は神と契約してるだけの人間だわ!」


「そうですか。では神の契約者よ。今までとても面白いものを見せていただきました。ウランクが余計なことを話したせいで既にご存知かと思いますが、ワタクシは別の場所からあなたたちの奮闘を見せていただきました。どうやら本当に中身は男の子の女の子なんですね。双子と言ってもいいくらいに妹さんに似て可愛らしい」


「ねー。お姉ちゃん可愛いでしょ。ってそれは自画自賛みたいか」


「おい。アルカ? 色々言いたいことはあるが、アレは大魔王だぞ?」


「でも、女の子だし、まだお話中みたいだし」


「そうは言うが……」


 魔王なんてのが、じゃあ今から戦いましょうか。なんて言ってくれるとは思えない。


 いつ油断をついて攻撃してくるかわかったもんじゃない。


「そう緊張しなくて大丈夫ですよ? 別にすぐに命を取ろうってんじゃありませんから」


 突然力が抜ける。なんだかものすごくヨーリンに甘えたい気分になる。


 もういっそモンスターを許してしまってもいいんじゃなか。


「違う! 俺は何を!」


 咄嗟に前に飛び、俺は自分のいた場所を確認する。


 魔王があやしげな笑みを浮かべながら手を動かしている。


 確かに俺の首元に撫でられたような感触がある。


「今、何をされたんだ」


「おそらく精神汚染。洗脳だろう」


「俺がタダで魔王を許せるわけがないからな」


「あら、別世界では殿方には百発百中でしたのに。あなたには効かないんですね。女の子になっているから? それともモンスターが許せないから? 果ては神の力?」


 おそらく神の力か。何にしてもこいつは危険だ。


 音もなく動くとよくわからない攻撃をしかけてくる。


 別世界とやらでも活動していたことを考えると、遠方から人さらいでもやってたのか。


「どうやらただただお話しするだけじゃ警戒は解いてもらえないみたいですね」


「誰がお前と話なんかするか」


 俺は即座に剣を構えた。


「待て」


「なぜだ!」


「大魔王の様子がおかしい」


 神の声に俺は動きを止める。


 ヨーリンはなぜか手で顔を隠し始めた。


 俺は思わず顔をしかめた。


 特殊なスキルでも使っているのか、骨が軋むような音が聞こえてくる。


「こんなものかしら?」


「な」


「嘘」


 ヨーリンはすぐに顔を明らかにした。そこにあったのは。


「俺?」


「おにい?」


 そう俺の顔。


 声は変わらずヨーリンのものだが、顔はこれまで俺が毎日のように見ていた俺の顔に変わっていた。


 見間違うはずもない。今のヨーリンの顔は俺の顔だ。


「なんのつもりだ」


「なにって。ただ、楽しんでもらおうと思っただけですわ。どうかしら?」


「こんな状況で楽しめるか」


「そう。まあ、時間をかければ体も声も変えられるんですけど」


「へー」


「アルカ。そんなものに惑わされるな」


「でも、普通にお話ししたいみたいだよ? お姉ちゃんも一緒に話そうよ。ガールズトークしよ?」


 おかしい。アルカはこんなにモンスターに対してオープンだったか?


 いや、違う。そんなはずはない。アルカだって俺と同じく家族を殺されている。そう簡単に受け入れられるはずもない。


 そこで俺は違和感に気づき鼻と口を押さえた。なぜか先ほどまでと空気が違う。


「へー。気づくんですね。でも、こっちも効かないみたい。あなた、やっぱり特別なの? それともそこのアルカちゃんにはまだ神がついていないからかしら?」


「済まない。気づくのに遅れた。アルカにも我々の神から誰かをつけておけば」


「反省するだけ成長してるってことだ、神。偉そうなだけじゃなくなっただけ、俺はお前を信用できる。倒して呼べばいいってことだろ?」


「ああ。後からでも精神汚染はなんとかなる」


「ならよし」


 俺は腕を広げ口角を上げた。


「大魔王。お前、本当に一体目か? オリジナルは他にいるんじゃないのか?」


 ベルトレットにしてもそうだったが、自分のやり方に自信を持っていて芯のないやつに効くのは、自分の存在が揺らぐことのはずだ。


 しかし、ヨーリンは笑みを崩さない。


「そうかもしれませんね。でも、興味ありません。あなたはどう思います?」


 ヨーリンの顔が元に戻っている!?


 動きが目で追えていない。


「バカな」


 まだ何もされていないはずが、俺の剣にヒビが入った。正確に真っ直ぐ縦にひび割れている。


 どうして今?


 俺はまだ動こうとすらしていないのに。


「強制的にお話ししようと思ったんです。武器がなくなれば会話しかできないでしょう? なので、壊しておきました。無理しても本気じゃ戦えないはずです」


「くそ」


 確かにヨーリンの指摘通り、俺の剣はもう、一本の剣として使うのは無理かもしれない。


「ワタクシも別に人の命に意味がないなんて思っていなんです。ただ、必ずしも人間が好きなモンスターばかりじゃない。部下の暴走は許していただけませんか? それに、みんなワタクシのペットになるのなら全て丸く収まると思うんです」


「誰がペットになるか。それは遠回しに死ねって言ってるようなもんだろ」


「ダメですか? 全てを管理されて緩やかに衰退する。死ぬまで安泰ですよ?」


「じゃあ、俺みたいなのはそこでどうなるんだ?」


「死にます。ワタクシに刃を向けるなど極刑です」


「なら受け入れるわけないだろ」


 俺はアルカを気絶させ、ラーブたちのところまで瞬時に避難させると、改めてヨーリンに向き直った。


「なかなかに早いんですね。戦えるっていう意思表示ですか?」


「ああ。俺は戦うさ」


 俺は剣の具合を確かめる。


 まだ少しはもつ。


「その剣、まさか使うつもりですか?」


「もちろん」


「正気か?」


「当たり前だろ。心が読めるなら、それくらいわかってるはずだ」


「だが」


「いつだって戦いってのは一発勝負なんだよ」


「果敢に攻めてくるなんて人間としてかっこいいです」


「負ける気がしねぇ!」


 魔王のように地形を絡めてのように使う気はないのか、俺の加速に対しヨーリンは体勢を変えない。


 俺は容赦無く切り払った。


 今出せる全力の力で。


「くっ」


 だが、簡単に両手を使い防がれてしまった。


 まるで手刀を二刀流のようにし、剣を防いでいる。


 やはり一撃では無理か。


「素晴らしい攻撃ですね。人間として極限に達している。ワタクシの力も加われば、誰よりも強いモンスターになれますよ?」


 どうやら勝ちを確信しているようだ。俺は思わず笑ってしまう。


「受け入れてくれるんですか? モンスターになるなら極刑は免除してあげます」


「悪いな。俺はモンスターにならない。そもそもこの剣は元々アルカと俺の二人用なんだ。一撃で終わるようにはできていない」


 俺はヒビ割れの部分で剣を二つに割り、追撃。


「うらああああああああ!!!」


 二撃目をヨーリンの胴に入れた。


「なっ」


 ヨーリンが初めて表情を崩し、力なくその場に崩れ落ちた。


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