第15話 死神の幼女化

 突然名乗りを上げながら死神にトドメを刺したラーブ。


 俺は突如死神が光り始めたため、警戒していたが、スキをつかれてしまった。


 いや、光のせいで動きに気づくのに遅れた。


 気づけば下半身を掴まれていた。


「どこから現れた?」


 もちろん光のところを指差す少女、いや、幼女。


 俺の腰ほどしかない背丈の小さな女の子は、死神がいた場所を指差している。


 しかし、そこにはいたはずの死神がいない。


 ということは、この幼女が死神だってのか?


「おかしい。絶対におかしい。これが死神?」


「あたしは死神だもん」


 声も可愛らしいものに変わり、拗ねた様子で俺に主張してくる。


 何故俺の腰にしがみつくようにしているのかはわからないが、ウロウロと歩いても離れようとしない。


 武器も何もかもを失った様子で、タマミ以上に武器らしいものを持っていない幼女は、何が起こったのかわからないが死神と認めざるを得ないらしい。


 他に思い当たるやつもいないし。おそらくラーブのスキルか何かだろう。


「魔王の情報ならさっきので全部話した。今度はあたしの言うことを聞くの」


「いや、言うことを聞けって、立場わかってる?」


「女の子に手をあげるの?」


「……」


 自分を死神だって言ってるくせに女の子扱いしろって?


 まあ、ほとんど人間と変わらない見た目をされちゃ手を出しにくいけど、見た目が変わろうと死神は死神だろ?


 だが、死神がこんな変身スキルを持っているとは思えない。だからこそラーブが怪しいわけで。


「ねぇ、どうして私のほう向いてくれないの? 私がお姉ちゃん、いや、ママだよ?」


「……」


 死神に無視され続けてるラーブ。


 俺の話に割り込んで殴ったくらいだ。何か仕かけたのだろう。


 幼女になった死神の反応がないことが相当こたえているのか、地面に倒れて項垂れている。


 気づけば神がついているが、もしかして神から力を与えられたのか?


「そのようだな」


 俺の神が言ってるからにはそうなんだろう。


 そうなんだろが。


 俺のことをうるうるとした目で見上げてくる元死神。


 調子狂うな!


「ラーブ! ラーブって言ったな! 死神に何してくれたんだ」


「何? ラウルちゃんは元の死神の方が好み? まあ、男の子だもんね。気持ちはわかるけど、私は幼い女の子がいいの」


「あんたもラウルちゃんって、いや、そうじゃない! 好みの問題じゃない! 俺が言いたいのは話の途中だったってことで」


「あたしは死神だ。話があるなら聞く。でも、魔王については知らないよ?」


「ほら、こう言ってるじゃん」


 あーもー!


 問題ないのか? 死神の見た目は問題じゃないのか?


「わかった。この死神からも話を聞けるとしよう。だが、なぜこんなことにした」


「だってー。ラウルちゃんトドメ刺せないで困ってるみたいだったからー。お姉さん助けてあげようと思ってー」


「俺は話を聞いてたんだ。もっと周りを見てくれ。いや、素人に求めるのは無茶ってやつか」


「そうそう。次から気をつけるからさ」


「次?」


「私、あなたたちについてくることにしたから」


「は?」


 タマミを見るとペコペコと頭を下げてくる。


 スカウトしちゃったの? そりゃ神もついてるわ。


 なんだか自己主張激しい神様だな。相性よさそう。


「見込みがあるからな」


 俺の神からも推薦されてる。本気で言ってるのか?


 俺に拒否権はないのか。


「それで? 死神のことはもういいから、何をしたかを教えてくれないか?」


「私が使ったのは、他人を変化させる力だよ」


「他人を変化?」


「そう。人に限らず、モンスターでもなんでも、これで殴ったものを女の子にできるの」


 ラーブの手には確かにこれまで持っていなかったものが握られていた。


 手につけて相手攻撃する武器だろうか。今から女の子にする相手に使う道具には見えないが。


 笑顔のラーブを見ているとあまり気にしていないのだろう。


「私ってさ、足の速さでは誰にも負けないじゃん?」


「知らない」


「負けないの。負けたことないの」


「神官なのに?」


「そう。だから、追いかけてこれで殴るってわけよ」


「神官なのに?」


「そう」


 マジか。神官なのか。


 変なのが仲間に加わったし、もうどうしたらいいんだよ。


 まあ、仲間が増えるのはありがたいが、これが祈りが強いってマジかよ。


 いや、事実なんだろうな。


 だからこそ、神が俺をここまで運ぶことができたんだろうし。実際は仲間という名の監視役なんだろうし。


「でも、誰に懐くのかは決められないんだよね。私に懐けって思ったんだけど」


「あたしは一番力が強いものが好き。だからラウルが好き」


「私も強いよ?」


「腕っ節はラウルが一番だ。あたしが負けたのはラウルだ。だからラウルを手伝う」


「手伝う?」


「ダメか?」


「ダメ、じゃないけど」


 こんなの役に立つのか? どう見たって弱体化してるだろう。


 喋り方も変わってるし、変化させるってのがどこまで影響してるかわからないが、どう考えても素直に俺に従うとは思えない。


 なら、断ったら勝手についてくるんじゃないか?


「迷うんだ。へー。ラウルちゃんってこういうのに弱いんだ」


「ち、ちが」


「まあ、妹のために自分の体を投げ打っちゃうくらいだもんねぇ。小さい女の子が好きなのかな?」


「それは違う」


「じゃあこの女の子をここに放置してくの?」


「それは」


「あたしを置いてくのか?」


 不安そうな表情で死神は俺を見上げてくる。


 足手まといかもしれない。


 だが、俺が守りたいのはあくまで人間で。


 けど、ここにいたら人間もどきがやられるかもしれないわけで。


「わかった。わかったから! そんなに見つめてくるな! 連れてくよ。その代わりおとなしくしてろよ」


「やったー!」


 小さい女の子のように跳ねて喜ぶ死神。


 笑っている今の様子を見ると、とても死神だったものには見えない。


 人の命を奪った存在だが、今は人のようになっている。神も反対してこない。


 やはり神から与えられた力で変わったくらいだ。本当に人間の女の子になっているのだろう。


「あっ。言い忘れてたけど、私が変えられるのは見た目と性格くらいだから力は弱ってないよ」


「は?」


 死神は恐ろしげなカマを空中から取り出すと、無邪気な笑顔を俺に向けてきた。


「次はどこに行くの? 魔王の部下のところ? あたしの言いたいのはそれだったの」


「いいや、その前に大きな反応がある場所を目指す」


 俺の代わりに答えたのは、俺の神だった。


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