第166話 一歩
道は途中から石畳に変わった。さきほどまではそれなりに起伏のあった道だったのだ。ロボの疾駆の速度がさらに早くなる。目的地は近いのかもしれない。今のところ危害を及ぼすような生物は見当たらない。
「このまま真っ直ぐ魔王のところに行けるはずだよ。魔王は城に住んでいる。今は力を蓄えているんだろうと思う。目覚めたばかりみたいだ」
やはりハッシキの記憶や意識が戻り始めている。それは魔王の覚醒と関係があるようだ。
途中、野営を挟んで数日間走り続けた。空に浮かんでいるとは思えないほどの広大な大地が広がっている。この大地にも魔王の力が働いているするならば、ユリシスたちの接近は察知されている。それ以前に、イフリートやグリフォンが起動しているのだから、手に取るように分かっているのかもしれない。
幸い少し脇道にそれると泉がかなりの数、湧いていた。食糧は残り半分になってきている。魔王のいるところまでいけば、あとはどうとでもなるとユリシスは思っている。グリフォンに運ばれてここまでやってきたのだ。帰りも同様だと考えていい。魔王が自分たちを呼んでいる。導かれているという感覚が徐々に近くなっていく。それはハッシキも同様だと言う。
「魔王は今、積極的に動こうとはしていない。時期を待っているようにも思える。ボクたちが来るのを待ってもいるんだ」
ハッシキの言葉は確信に満ちている。恐怖はさほどではないが、緊張は高まりつつある。魔王という存在のすべてが謎なのだから。
城壁が見えてきた。左右がどこまで続いているのか分からないほどに長い。城に設えられたものというよりは境界として作られているようだ。となると、ここがある一定の目安になる。すでに半分は過ぎているのだろう。
道の先には観音開きの扉があるが、その前にとんでもない生き物が鎮座している。
「あれはもしかしたらドラゴンなのじゃないかしら?」
巨大なドラゴンが立っているのではない。ちょうど口を開いて、それを地面に押し付けるようにして屈んでいるのだ。そのドラゴンの顎の向こう側に扉がある。
「扉を潜ろうとすれば、ドラゴンの顎をくぐらないといけないみたいだね」
さすがのユリシスの身体もこわばってしまう。扉を開いた瞬間に、ドラゴンが口を閉じればそれでおしまいだ。ドラゴンがユリシスを食べてしまうのは至って簡単だ。ちょっと口を動かしさえすればいい。
ロボが走る速度を落とし、ドラゴンに近付いていく。城壁も長大だが、門もまた大きい。それに匹敵するほどの顎の大きさをドラゴンは持っている。まさに城門の守護者に相応しい。
「ボクたちは魔王に導かれてここまできた。ここにきてドラゴンに食べられたりはしないはずだ」
ハッシキは言うが、根拠は何もない。ハッシキの感覚がそう告げているだけにしかすぎない。
「迂回はできそうにもないわね。道はこの一本しかないようだものね」
左右を見渡しても扉はここにしかない。仮に扉を見付けられたとしても、同様にドラゴンが守っていると考えるのが自然だろう。
ユイシスとランサは、ロボから飛び降りる。そしてゆっくりとドラゴンに近付いていく。いずれにせよ、顎を通らなければならないのであれば通るまでである。ここで躊躇って無駄な時間を過ごすたくはない。
ゆっくりとドラゴンの顎へと近付いていく。
おとぎ話ではドラゴンは炎を吐く。それが真実であるのであれば、別に口を閉じなくても、ユリシスたちを葬るのは簡単だ。一息で済む。さらに言えば、口を閉じ、立ち上がって攻撃してくれば、ドラゴン相手では分が悪い。
「つまり私たちには選択肢はないみたいね。行きましょう」
今までイフリートもグリフォンも攻撃はしてこなかった。その前例に従うしかない。信じるしかないのだ。
「怯えたりしたらかえってだめな気がする。堂々と通りましょう」
顎はロボの身体の数倍もある。あがいたところでどうにもならないのは自明なのだ。
「行きましょう!」
ユリシスの身長の倍ほどもある歯の間を抜けるようにして、顎の中へと入る。見上げると、喉の奥がまるで虚空のように広がっている。微かに呼吸しているようだが、獣臭さなどはまったくない。
ゆっくりと一歩を進める。丸呑みされても終わりだし、牙を剥かれてもそれで最後だ。
「後少し」
ユリシスの額に汗が浮かぶ。ここまで来たらもう引き返せないのだ。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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