第163話 通路
ユリシスたちは洞窟の前に立っていた。洞窟というよりはダンジョンに近いのかもしれない。扉が着いている。場所は人目のない森の奥底だ。
実はここにくるのは二回目だ。ハッシキに導かれてこの場所を見つけたのは数日前だった。日が落ちようともしていたし、食糧も残りすくなかった。最後の街まで戻るのにも三日ほどは掛かる距離だったのだ。しかも、街道からも大きく外れている。
「出直しましょう」
その時、ユリシスは即座に決断した。この扉の向こうに何があるのかは、はっきりと分かる。魔王がいるのだ。
しかし、魔王の元まで簡単にたどり着けるかどうかは分からない。ハッシキの記憶も戻りつつある。しっかりと話しをした方がいい。もちろん準備も怠れない。洞窟の中に入ってしまえば、食糧の確保は難しくなるだろう。
「ロボ、この場所は覚えられる」
ロボの首筋に手をあてがって、ユリシスは尋ねる。
「問題ない。一度来てしまえば迷わないし、最短距離で戻ってこられる」
頼もしい返事だ。
「それで、ハッシキ。この洞窟はどれぐらい続いているのかしら? 分かるようなら教えて欲しい。それに、ここを抜けたら魔王にも会えるのかしら?」
人目の付かない、いや、そもそも人が近付かないような場所だ。深い森の中だけに、狩りをするには充分な獣が徘徊しているが、あまりにも深すぎる。狩りをするのであれば森の縁を回るだけでも充分なのだ。つまり、この扉には秘密がある。
「分からない。でもボクもそしてユリシスも魔王とは関係があるみたいなんだ。ボクの記憶はまだ朧気だ。この扉を潜ると何か思い出すかもしれないね」
洞窟の中が危険かどうかも大きな問題になってくる。生き物がいるかどうかは疑問だが、扉が着いているのだから、侵入を防ぐためなのは明らかだ。そう考えると生き物がいる可能性は低い。つまり獣たちに襲われれる心配は少ない。
「明かりの必要はないと思う。それだけはボクにも分かる。だから松明やランタンはいらないよ」
森の中にはいくつかの泉があった。そこで水は確保できる。洞窟から一番近い水場に寄れば大丈夫だろう。火の必要がないのであれば、それだけたくさんの水を持って入れる。もちろん洞窟の中に水が湧く場所があるかどうかも不明なだけに、持てるだけは持って入りたい。
「それじゃ、扉を開いて」
扉はそれほどの大きさはないが、重くて頑丈そうだ。ユリシスが把手を引いても動かなかった。ここはロボに任せるしかない。
太めのロープを把手に掛ける。ロボが眷属を召喚する。百体もいれば開くだろう。そう見込みをロボは付けているようだ。
扉が軋む。ゆっくりと開く。出来た隙間から陽光が中に差し込まれていく。過去にどれだけの人がこの扉を開いたのかは定かではないが、その中に魔王、そしてユイエストが含まれているのは確実だろう。その道を反対にユリシスたちは向かっていくのだ。
扉が完全に開いた。饐えた臭いもカビ臭さもない。澄んだ大気がたゆたっている。
「呼吸も問題はないよ。水の中とは違うからね。ほら、明かりが見えてきた。予想どうりだ」
中に入ると真正面から揺れる光が徐々に近付いてくるのが分かる。光は上下左右に揺れている。近づくにつれ、人型が浮かび上がる。その人型を見てユリシスは息を飲んだ。全身が炎に包まれている。身体が燃えているのだ。
「心配ない。彼は魔王が召喚した精霊のイフリートだよ」
知ってはいる。だか、それはおとぎ話の中だ。精霊や魔獣は滅び、伝説の中だけの存在、ユリシスにはそれだけしか分からない。だが、目の前に立っているのは間違いなく炎をまとった人型の何か。ハッシキが言うのだから間違いなくイフリートなのだろう。
「彼はこの洞窟の案内人さ、多分ね。着いていけば出口まで連れて行ってくれるはずだよ」
意思の疎通が出来るのかどうかは分からないが、イフリートはユリシスたちの前まで来ると、背を向けてゆっくりと歩き出す。
「後ろを着いて来いって言ってるみたいね。ハッシキも言っているし、出口まで案内してもらいましょう」
イフリートの火で洞窟の内部が照らされている。表面は滑らかで、どうやら通路になっているようだ。明らかに人工物だと分かる。道はいくつか枝分かれしているのだろう。そうでなければ案内の意味はない。
少し歩くと、後ろから音が響いてきた。扉が閉まったのだ。どうやら侵入を防ぐために開いたあとは勝手に閉じる仕組みになっているようだ。これで後戻りはできなくなったと考えていい。ユリシスは一つの意思によって導かれているのだ。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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