第162話 途次
港町には街道が五本ほどつながっている。それぞれにその先には街があり、領主が治める国があると地図には記載されている。ただし、それぞれが二つ三つ先までしか記載がない。そこまでしか調査が及んでいないのだ。
「それでハッシキ、どの道が正解なのかしら?」
ユリシスたちには、もちろん魔王の気配すら分からない。そもそも魔王が治めていた国は滅び去ったようでもある。
「こっちの道だよ。気配はあちらから漂ってくる」
ハッシキが示したのは北へと向かう道だった。ちょうど川と並走している。ユリシスたちにとっては都合がいい。というよりも、むしろ川に沿って街が数珠つなぎに形成されていると考える方が自然なのだろう。未知の領域に踏み込むのは確実だが、指標があるのはほっと扨せられる。
ユリシスとランサは、ロボに荷物を括り付ける。ランサは自分の背にも荷物を背負うと、ユリシスを前にしてロボにまたがる。いよいよ出発だ。ラクシンの部下たちに礼を言う。彼らは町外れまで見送りに来てくれていたのだ。
「ラクシンには北に向かったと連絡を。もし取れるようであれば、こちらから連絡を入れるから」
街道を走るにはロボは目立ちすぎる。少し外れの草原地帯を川を左手に見ながら進んでいく。大地は広く平たい。ただの草原ではあるが、穀倉地帯にも向いているようだ。この大陸の潜在力は高いのではないかとユリシスは予想する。
「魔人は人間に比べて人口が少ないとも言っていたわね。もし増えていくようなら脅威になるかもしれないわね」
ただそれも魔王次第だとも言える。お伽話からすると、過去、魔王が人間の世界に攻め入ったのは確実に思える。そこからは単純に侵略思想を持っている可能性しか分からない。
当たり前だが、他国へと攻め込むためにはまず、足元がしっかりとしていなければならない。それは大前提だ。民族ごと移動するという考え方もある。その場合は国が危機に陥っている場合が想定されるが、常識的に考えると、対外に目が向くのは内政が充実してからだ。内側に意識が集中している間は、戦争は起こしにくい。
「今の魔王の状態はいったいどうなっているのかしら?」
存在は確実でも、魔王の国が動いているという情報は入ってきていない。とすると魔王自身に何らかの不都合が生じているのだろう。
「ハッシキ、そのあたりは分からないのかしら?」
ハッシキが魔王と何らかの関わりがあるのは、この大陸に渡ってきてからよりはっしりとしはじめているハッシキの意識から察すると確かなようだ。そのハッシキの導きでユリシスたちは動いている。
「存在は感じる。でも動きは微かなんだ。近付いていけば何か分かるかもしれない。今のボクたちにできるのは、近付いていく、それだけだよ」
ユリシスはできれば魔王と対話したい。魔王が暴虐であってもらっては困る。せめて話しができれば、互いの存在を認め合って、共存も可能になる。そもそも大陸が違うのだから、互いに不干渉でも構わないのだ。
「人間からは攻めない。それだけでも分かってもらえれば充分だけれども、対話できる状態なのかどうかすら分からないとなると厄介ね。でも行くしかない」
ロボは疾駆する。
何日かの野営を経て、ようやく最初の街が見えてきた。城壁はなく、木で柵が巡らされているだけだ。小さな街のようだ。
「街道につながっている街ですから、小さくでも宿屋などはあるはずです。物資の調達もできるでしょう」
街は大地と同様に平たい。高い建物は少ないようだが、それでも横への広がりはある。それなりに人は住んでいるようだ。国と国との交流度合いがユリシスたちには分からない。国同士で交易などが行われているのであれば、駅舎制度などがあるかもしれないが、領域国家ではそれは難しい。商人たちが切り開いた街道に沿って街があると考える方が自然かもしれない。それだけに、準備を整えるのには適している。
街は思いの外、往来も多かった。装束もそれぞれで、いろいろな地域から人々が集まってきているのが窺えた。こういった場所であればユリシスたちも目立たない。ユリシスはロボにくくり付けていた道具類を背に負う。ランサがすまなさそうにしているが、ランサと二人だけの旅でもあるし、街中ではロボは擬態しないと不自然だ。ロボが背負っていた分の荷物ぐらいユリシスは平気だ。
「ランサ、気にしなくていいから。私たちはみんなで旅をしているの、馬車にゆられて優雅に動いているわけではないのだから」
肩と背中に重みがかかる。ユリシスは荷物を背負って初めて旅を実感できる。危険と隣合わせではあるが、限りなく自由を味わっている気もする。戦場に向かう訳でもない。もちろん目的はあるが、それも朧気なだけに、一層、旅情が掻き立てられる。この変哲もない街ひとつをとっても、大切な思い出になりそうだ。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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