第161話 準備

「魔王の居場所は分かっている。ボクには分かるんだ。何か繋がりがあるような気がしている。引き続き調査は進めてもらっても構わないけれども、無駄になるかもしれない」


 どうやらこの大陸へと渡っててきて、ハッシキの感覚が鋭くなっているようだ。どこへ向かえばいいのか分かるのであれば向かうのみ。ハッシキに従って進めばいい。


「引き続き調査はお願いするわ。私たちは独自で動くから、気にしないで。大丈夫、心配しなくても」


 危惧するラクシンの部下をなだめる。必要な物資はここで調達する必要がある。野営道具に最低限の食糧は必要だ。この街でそろうかどうかを尋ねると、数軒の店を教えてくれる。


 街は自治でなりたっているようだ。城壁はない。港の後背地には多くの倉庫が並んで壮観だった。


「なぜこの街は自治でなりたっているのかしら? これだけの街、手中に治めたいっていう国は多いのじゃないのかしら」


 ユリシスにとっては自治という概念があまり育っていない。不思議なのだ。


「この街を一国が治めるのは不都合が多いというか、損なのだからではないのですか?」


 一国が治めると、その国の物資だけしかこの街には集積されない。そうなると、この街を訪れる船が減る。ここは確かに天然の良港ではあるけれども、他に候補地がないわけではない。各国が自治を黙認し、あらゆる国の物資をここから人間の大陸へと送ったほうが利は大きい。


「どうらやこの街には自警団があるようですから、守りもしっかりと考えている節はありますね」


 流れ者の傭兵志願者にとってはここの自警団は、正規兵採用と変わらない。安定した生活が送れるのは兵士たちにとってはこれ以上ない待遇となるに違いない。


 この大陸の国々は一定の領域を支配している、つまり国境線が確定していない。それだけ未成熟なのだ。

 かつて繁栄を誇った国があったのかどうかすら、霧の彼方に隠れていてユリシスには分からない。いや、この大陸に住む全ての魔人たちにも分からないのかもしれな。魔王は伝説の存在なのだろうから。


「姫様そろろそ参りましょう。ゆっくり散策も良いですが、買い出しを行わないと、日が暮れてしまいます」


 そうだ、ユリシスたちは出発に向けての買い出しにでたのだ。途中街があれば買い足しは可能だが、ない場合を想定して、調理器具などの雑貨は揃えておいたほうがいいだろう。食糧は狩りをしながら進んでいかなければならない可能性もある。

 問題は水場だ。街には川が流れている。この川に沿っての移動であれば、水は問題ないが、やはり水の確保を最優先して動く必要が出てくるだろう。

 飲料用の水としては雨水が最適なのだが、こちらの大陸の気候状況はよく分からない。雨季と乾季があり、今が乾季であるのならば雨は絶望的だ。戻ったらそのあたりも確認しなければならないだろう。


 保存の効く食糧や雑貨をあらかた買い、戻ると、持っている荷物を見てラクシンの部下たちは驚いていた。


「言ってくださればこちらでご用意させていただきましたのに」


 ラクシンの部下たちは、王族出の聖女だとしかユリシスを知らない。驚くのも当然だろう。ラクシンもユリシスについて多くは知らせていないようだ。


「私は戦場だって踏んだ。旅や野営には慣れているから大丈夫よ。街の様子も見てみたかったからちょうどよかったと思っているぐらいよ」


 気さくな対応にラクシンの部下たちも息を撫で下ろす。


「地図はあるのかしら?」


 ラクシンの部下たちがここに拠点を置いて、日はまだ浅い。期待はしていなかったが、どうやら簡単な地図はあるようだ。


「三つほど向こうの街まで程度しかありません。申し訳ございません。こちらをお持ちください」


 簡単な略地図だ。ユリシスはありがたく受け取った。明日には出発をしたい。気が急いている訳ではないが、この街の探索はラクシンの部下たちに任せておけば、大丈夫だという信頼がある。


「明日にはここを出発するわ。地図、もらっておくわね。ありがとう。でも私たち、あての無い旅だから、どうなるのかしら、分かるようなら先を書き足しておくとするわね」


 受け取った地図に目を落とすと、それをランサに手渡す。


「簡単で恐縮ですが、食事の準備が整っております。お召し上がりください」


 ここの皆も同じものを食べているのだろう。豆と野菜のスープがだされた。他にはパンとブドウ酒が添えられている。主食は人間の大陸と同じ小麦のようだが、もしかしたら人間の様式がこちらにも入り込んできているのかもしれない。


「我々は、今まで魔人を顧みなさすぎた。魔王にしてもそうだけれれども、ほんの隣に全く違った世界が広がっている。戒めとしましょう」


 パンを千切るとユリシスは、それを口へと放り込んだ。


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

https://kakuyomu.jp/works/16817139557963428581#reviews

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