第120話 代表
途中、行き交う人は疎らだった。話しかけようとは思ったのだが、どうにも拒絶されているような気がユリシスにはしていた。街の規模は中規模領主の首府ほどはあるだろうか。ただ、周囲に耕作地などはない。教会ももちろんない。
ランサが地図を片手に持ち、間違えないように進んでいく。
「どうやらここのようです」
どこと言って変哲のないアパルトメントだが、見上げると四階建てになっている。周りの建物よりも頭一つ高い。木造の扉に手を当てる。中から人の気配がする。話し声も聞こえてくる。
思い切って扉をノックする。普段訪れる人はそれほど多くはないのであろうか、話し声が途切れ、気配が一気にこちら側へと向くのが分かる。扉がそっと内側から開かれると、短髪に無精髭を生やした男がユリシスたちを見つめていた。
ランサがユリシスの前に立つ。
「湖畔の番人のシュレンカンさんから聞きました。ここにくれば、何かが分かると……。私たちさっきここに飛ばされてやってきたんです」
最初は怪訝な表情を浮かべていた男だったが、シュレンカンの名前が出ると、それも消えて柔和なものへと変わる。顎で中に入るように促される。
そこは広いロビーになっており、椅子が並べられている。中には十人ほどが座っており、他愛もないおしゃべりをしていたようだ。
「ようこそ、というべきなのだろうか? いやそうじゃないだろうね。まあ、災難ではあったのだろうけれど、よく訪ねてくれたね」
その男はユリシスたちに手を差し出す。一人ひとりと握手を交わす。
「初めまして、私はここの代表みたいな役割をしている、ベグル・ポリという。ようこそ、諦念の都へ」
ユリシスとランサ、そしてオーサの装束を見て思い当たったようだ。
「派閥抗争でもあったのかな? 司祭服のように見えるが……」
ユリシスとランサはデザインが同じで色違い、オーサは二人とは意匠が違うが明らかに宗教関係者の服装だ。その違いから、教義上の争いを想像したようだ。
「それに近いでしょうが、少し違います。私達は戦争をしていたのです」
ランサは淡々と説明する。
「宗教戦争か、やっかいだな。どちらかが力尽きるか、どちらも倒れるか、結果は見えているよ。いつの時代でも宗教が絡むとそうなる」
本来であれば、人々の生きていくための指針であるべき宗教が時として狂気を纏う。兵士だけでなく、信者までをも巻き込んだ争いで多くの人が死ぬ。
ユリシスやランラ、ロボにハッシキは直接に、ここにいるオーサにしても間接に人を殺している。
「その戦争が終わる直前だったのです。終わらせるための戦いを私たちは選択したのですから」
ユリシスは言い繕っているにすぎない。どんな形であれ、訪れるものは死、形など変わらない。
「ここでは争いは無意味だよ、命は奪えない。仲良くしろとは言わないが、諍いはやめにしてもらいたい」
ベグルはおおよその察しをつけたようだ。どちらかが仕掛け、どちらかが応じた。戦争は最終局面を迎えていた。聖霊術は最後の一手だったのだ。
「私がここに来たときには、ユイエスト教は大きな宗教だった。すでに救済派と贖罪派はそれぞれに大きな力を持っていた。君たちがやってきた時代もそうなのか?」
服装の違いから宗派の違いを洞察したベグルもやはり宗教関係者なのだろうか? ユリシスは興味を惹かれた。
「あなたも教団の関係者なのですか? 詳しいようにお見受けしますが……」
ベグルは両手を広げて否定する。
「いや、私の時代にも争いはあった。それは誰もが知っていた。ほんの些細な違いだとは当時は思えなかったが、ここにくればそれも関係なくなるな」
ベグルよりももっと前の時代にここに飛ばされた人も多いようだ。最初の一人を見つけ出して話を聞きたい旨をユリシスは伝える。
「番人の人たちは、元の世界に戻るための方法を模索していると推察しています。研究している人もいるのでは? 私たちは戻りたいのです。最初の一人、聖霊術を編み出した人物に会えれば、手掛かりがつかめるのではと考えているのです」
ユリシスはつい自分が早口になっているのに気が付かない。まるで懇願するように、ベグルに訴えかける。
「確かに、最初の一人は存在しているし、研究をしている人も知っている。しかし、我々は少数派だ、それも分かってもらえると助かる」
飛ばされてきた状況というやつだ。ここにいる人たちは皆それぞれに諍いに巻き込まれた人、あるいは諍いを起こした人だ。仮に元の時代に戻ってしまえば、どうなるのか、戻ったあとはどう生きていけばいいのか?
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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