第116話 一条

 砂漠の中を人影た揺らめいている。ユリシスたちは、徒歩でこの砂漠を歩いていた。ロボにはまたがっていない。オーサを同伴しているのだ。最初は拒否していたオーサだったが、他に行く宛もなければ、今後の見通しもない。ユリシスは半ば強引にオーサに同行を求めたのだ。


「もちろんいろいろ聞きたい話も多いのです。まずは例の諦念の都で腰を落ち着けてからです」


 オーサとしては最高の形で、聖女ユリシスを封じ込めた。自身がどうなろうかなりふり構わない聖霊術を使い、満足していると言ってもいい。ここから逃げ出すための算段などに関わりたくはない。ここで一瞬に封じ込められてしまっても特に問題だとは思わない。それよりもユリシスの存在自体がナザレットにとっては大きな脅威だったのだから、オーサの立場からすれば、当然だ。


 光は眩しいが、灼熱はない。喉の乾きもなければ空腹も起こらない。


「それでも息をして、話もできる。意識がなくなったわけでもなく、しっかりと思考できている。なんだかとても不思議ですね」


 ランサの言葉に不快感は含まれていない。この別世界は本当に不思議な所だ。


「ボクは推測するのだけれども、この考えにはかなり自信があるよ」


 大きな砂丘を下りながら、ハッシキが声を出す。何か思い当たったようだ。


「ここは人を収容するにはとても好都合すぎるんだ。食事も、飲用水すら必要ではない。全く隔離された世界なんであり得ない」


 さらにハッシキは推測の羽を広げていく。


「ここは人を永久に閉じ込める場所だ。しかも閉じ込める側にしてみればとても環境が整いすぎている」


 そこから導き出される答えは簡単だ。


「この世界は人によって作られたに違いないとボクは信じる」


 もし、そうであれば突破口は必ず存在している。理屈では永久に幽閉できるとしても、観察しておかなければ、という心理が人には働くものだ。


「その観測用の窓というか、行き来できる扉みたいなものが必ずどこかにあるとボクは思ってる」


 鍵になるのは聖霊術だ。


「直接、空間に干渉するのではなく、聖霊術という媒介を必要としているのがポイントだよ。聖霊術は人が考え出したものだからね」


 山や川、海や空は原初から存在しているが、聖霊術はそうではない。人が叡智をその身に宿してからずっと研鑽してきた、人による術式だ。


「人にって生み出された聖霊術によって、飛ばされた作られた空間であるならば、必ず突破口があるというわけね」


 ハッシキの発想は大きく翼を広げているが、無理な跳躍ではない。至極、理にかなっている。ランサは特に納得ができたようだ。オーサの背中に汗が流れる。


「うんそうなんだ。さっきその男はディメンショナル・コリドールという聖霊術を使ったと言ったけれども、ここに飛ばされてきた人すべてがその聖霊術によって閉じ込められた訳ではないはずだよ」


 仮に出口は一つであっても、入るための鍵穴は術式の数だけ存在している。火炎系聖霊術にもいくつもの種類があるのと同様に、この次元系聖霊術にもいくつもの系統があり、種類が存在しているはずだ。


「最初に考えついた人は天才としか言いようがないと思うけれども、その発想さえ伝えられれば、同じような術式は無数に派生する」


 最初に使われた原初の聖霊術に手掛かりがあるかもしれない。それも諦念の都にいけば分かるはずだ。最初の一人を見つければいいのだから。


「ジュレンカンは、この術式を掛けられて厭世的になり、山奥などに隠棲している人もいるって言っていたわ。もし諦念の都にいなければ探し出さなければならない。それはちょっと厄介かもしれないわね」


 ユリシスは懸念を口にする。


「それでも死が絶対的ではないのがこの世界の弱点なんじゃないかな? ボクの見立てでは人伝いであっても、きっと最初の一人に行き着くと考えているけれどね」


 その術式を解析すれば何らかのヒントが得られる可能性は大きい。


「術者もろともっていうのは諸刃の剣なのかもしれないですね」


 聖霊術に精通しているランサであれば解析はそう難しくはない。もしかしたら、最初の術者はすでにこの術式の弱点に気がついているのかもしれない。あまりにも強力であるために、原初の形をそのまま残している可能性が濃厚な術式であるかも知れないとランサは考えているようだ。


「本来であれば、肉体と魂を切り離して、魂を混沌の世界へと送り込むような形が理想だったはずです」


 ランサの一言は一条の光のようにユリシスに響いてきた。


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

https://kakuyomu.jp/works/16817139557963428581#reviews


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