第97話 配慮
ユリシスたちは指揮官の遺体に近づくと、落ちていた槍を拾い上げ、穂先にその首を掛ける。
ランサが槍を掲げ、声高に告げる。
「指揮官は討ち取った。これ以上の抵抗は無意味である。退散せよ。追撃はしない」
ランサの対応に、満足なのかユリシスはうなずいている。ロボが後方に向かって走り出す。ランサは何度も叫び声を上げる。戦場に敗北が伝わっていく。雪崩を切るように、逃げ出す一団があるかと思えば、その場でへたり込んでしまう兵士たちもいる。もはや統制の取れた軍隊とは言えない。戦闘は終了したのだ。
ユリシス一行は、戦場を一回りすると、先程の指揮官がいた場所へと戻ってきた。そこには指揮官を守っていた将校団がまた佇んでいた。
「残兵をまとめて逃げなさい。名誉ではありませんが、恥でもないでしょう。命を拾うのです」
ユリシスの言葉に合わせるように、ランサが首の掛かった槍を将校へと渡す。援軍の敗北が補給部隊に伝わるはずだ。ユリシスは時間が惜しい。だか、このまま先行するわけにはいかない。
「長居は無用。一旦戻るわよ。ロボ、急かすわね」
ユリシスは将校たちには一瞥もくれずに前を見る。作戦はまだ完了していない。急いで元の戦場に戻り、兵をまとめる必要がある。今までの戦闘とは違いこちらに被害も出ているはずだ。その確認もしなければ次の行動へと移れない。
ユリシスたちはそのまま山へと分け入った。
最初の戦場でも戦闘は終了していた。ユリシスの姿を認めると、ラクシンが寄ってくる。
「逃げる兵はそのまま追いませんでした。こちらは死傷者が一割程度出ています」
敵は五割の兵を失って壊滅した。大きな勝利だ。損害も思ったほどではない。
「半数の兵で騎馬隊を編成してちょうだい。それ以外はターバルグへと帰るように指示を出して」
すでに編成作業には取り掛かっている。ほどなく準備は整うだろう。
「おそらく、敗報を告げる伝令がレストロアと補給部隊には出ているはずです。もちろん捕捉すれば処置するように伝えておりますが、完全には難しいでしょう」
ラクシンの見立ては正しい。そこで問題になってくるのは補給部隊の動きだ。レストロアからは追撃の兵が出る可能性は低いのではないかとユリシスは思う。今まで見てきたが、軍隊を出すのはいろいろと手間暇が掛かる。一人で槍を持って飛び出せばそれでいいという訳にはいかないのだ。
「補給部隊が向かってこないかも?」
敗戦を知った補給部隊の動きとしては、充分にあり得る。そのまま引き返す方が安全だからだ。
「レストロアからの援軍と補給部隊の合流予定地まで行って、補給部隊がいない時にどうするか考えながら進みましょう」
偵察が張り付いているので動きはある程度は把握出来るとラクシンは言うが、実際の動きはその偵察からの連絡待ちになる。様子を窺いながらの進軍となるのだ。
ユリシスが作り出した城壁が見える。これで相手を分断したのだ。
「あれはまだ残しておきましょう。レストロアから兵が出てきたら、防ぎになってくれるはずよ」
どうやら準備が整ったようだ。取り残された敵部隊が通ってくる予定だった山裾の道を反対に回って進む。その方角をユリシスは示す。
「夜が明けたら、追撃を開始する。可能な限り急ぐので、そのつもりで」
昼過ぎからの開戦で戦い続けている。部隊にも疲労が貯まっているし、ずでに陽は山の向こうに落ちている。今日はここまでのようだ。山裾の道の途中で日が完全に暮れ、山中に入っての野営は危険が大きい。かと言って不眠のまま軍隊を動かすのも厳しい。暗くて進みようがないからだ。この開けた場所で充分に休憩をとってから、急がせたほうが良い。
ロボに寄り掛かるユリシスに、ランサがカップを手渡す。沸かしたお湯を持ってきてくれたのだ。
「失敗したとお思いですか、姫様?」
ユリシスはランサを見上げ首を撚る。成功だったのか失敗だったのかまだ良く分からないのだ。それだけ必死ではあったユリシスではある。
「倍する敵を撃破したのですよ。成功以外にはないのではないですか? 他の誰かが失敗だと言ってても私は成功だと言い張るつもりですよ」
ユリシスにとってはランサのこの心遣いにほっとさせられる。他に方法がいくつかあったのかもしれないが、どの方法を取ったとしても、何らかの引っ掛かりは残ったはずだ。
戦いには勝った。相手にとっては痛恨の敗北なのは確かだろう。負けていれば、もっと後悔したのも間違いはない。
ユリスはカップを置くと、横になった、少し仮眠を取ったらすぐに出発だ。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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