第81話 日課

 夕食を終えたユリシスは王城内にある訓練所へと足を運ぶ、ここ最近の日課だ。後ろにはランサとロボが付いてきてくれている。昼間は騎士団の修練や、兵士の訓練などで人がたくさんいる活気のある場所なのだが、さすがにこの時間に練習している人の姿はない。


「出来るうちにやっておかないと後悔しそうだから」


 それが最近のユリシスの口癖だ。レストロアとの話しでもそうだったが、戦争は避けようがないようだ。その場合は自分も出征しなければならないだろう。であれは今のうちで訓練を積み、少しでも熟練度を上げたいのだ。

 ただし、訓練といっても簡単なものだ。基礎的な術式の反復が主なのだ。この訓練にランサは毎回付き合ってくれる。ランサに比べるとユリシスはかなり不器用だ。何度も同じ失敗を繰り返して上達するしかない。

 ユリシスは掌を上に向ける。


「イザロの炎!」


 真っ赤な炎が浮かび上がる。そこに聖霊力を込めていくが、炎の色は変わらないし、大きくもならない。ユリシスの聖霊術の技術ではこれが限界なのだ。

 同様に、ランサもイザロの炎を発動させる。


「お分かりかと思いますが、聖霊力を注ぎ込んでいくイメージなんです。器から少しずつ。あ、これは私のイメージなりますから、姫様なりの力の込め方で大丈夫です。もちろん、慣れてくれば一回に沢山の量の聖霊力を注ぎこめるようになります」


 ランサはいつも側にいてくれて、手ほどきをしてくれるのだ。ランサが手に力を籠める。炎が大きくなる。力を抜くと炎は小さくなっていく。調整しているのだ。


「もちろん温度調整も可能です。温度が高ければ高いほど破壊力が増すのはご存知の通りです」


 朱色からオレンジ色、そして徐々に青白く炎はその姿を変えていく。聖霊力のイメージは各個人で違ってくる。引き出しを開けたり、扉向こう側をイメージしたり。ユリシスの場合は泉から湧き出る感覚だろうか。


「その聖霊力を身体中に巡らせていくのです。これは何度も言っているのでもう、充分体得されているようですね」


 身体を巡らせる聖霊力の調整も可能だ。


「やっぱり、この聖霊力を巡らせる感覚は、剣術にも利用できそうだよ。少し試してみてもいいかな」


 ハッシキが右腕を操る。腕が剣状に変化する。


「うん、やっぱり聖霊力をまとわせた方が剣も鋭くって切れ味が上がっているような気がする。スピードだって全然違ってくるね」


 ハッシキは腕を繰り出す。訓練場に打ち込まれている、練習用の杭をなんなく両断する。ユリシスの聖霊力は高い。戦闘中に右腕に回す余力はいくでもある。


「悪くないね。相当に戦力になると思うよボク自身が保障する。ユリシスは相手の攻撃を避ける練習をしたらどうだい?」


 基礎体力の低いユリシスはまずは走り込みあたりからやり始めなかればならないようだ。


「聖霊術では私にはこれが精一杯みたいね。せめて自分の身を守れるぐらいに防御聖霊術を磨くわ。体力作りも追々やっていかないといけないわね」


 ユリシスは手の上の炎を握りしめると、目をつぶりイメージする。

 佇む大河。その源流を。緩やかな流れは、やがて早瀬になり渓流となる。流れは岩を削りながら山の奥へと続いていく。日差しが当たる隙間に小さな泉がある。そこからユリシスの聖霊力は湧き出ている。手をそっと浸す。ちょうど体温と同じぐらいの暖かさを感じる。手と聖霊力との境界がなくなり一体になる。

 ちょっと前までは器で泉から聖霊力を汲み出すイメージだったが、こうやって腕を浸して調整するイメージに変わった。そちらの方がコントロールしやすいと気が付いたのだ。


 泉から聖霊力を吸い上げていく。身体中を駆け巡らせていく。全ての細胞を通った聖霊力は濾過され精錬されていく。

 左手の中指に力を籠める。純粋な聖霊力を集めていく。収斂された聖霊力は、膨大な力を持ち始める。その力を指先へと移動させ、聖刻神器の鉤爪の先端へと持っていく。

 その瞬間に、左手の中指を動かして、空間に文様を刻む。以前何千回の練習してやっと体得できたが、今では容易だ。刻まれる文様は自術式に酔って変わってくる。属性によっては色も異なってくる。

 ユリシスはオレンジ色の輝く文様を描いていく。


「グラベーリン! ブラン・イザロの炎」


 中空に青白い拳大の玉が出来上がった。


「できた! 青白い玉!」


 ランサが防御結界を展開する。


「ヴァリゲ・ショール!」


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

https://kakuyomu.jp/works/16817139557963428581#reviews

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