第73話 再生
騎士たちの構えた剣に陽の光が反射する。命令を待っているのだろう。微動だにしない。いつでもユリシスたち襲いかかれる態勢は出来上がっている。男の号令を待っている状態だ。
胸には桔梗の紋章。間違いないナザレットの聖騎士団、この国最強の精鋭部隊。
「姫様いけます。かなり強力な術式です。ちょっと強引ですが術式を上書きして解除します。それしか方法がありません。オーヴェシュクリーブ!」
まばゆい光が、中空に浮かぶ腕に向かって直進し、当たる。ユリシスの右腕が光に包まれる。腕に掛けられた術式にヒビが入り、剥がれ落ちていく
「いけます!」
腕を確保するためにロボが擬態を解いた瞬間だった。男が甲高い声でゆっくりと話しはじめた。ユリシスにとっては何度聞いても生理的に受け付けない声だ。
「そう来ると思っていました、やはりあなたは聖霊術の達人だ。だが……」
包んでいた光が収束し、腕に吸収される。元の状態に戻っていってしまう。
「効いていない……?」
縛られた腕に糸が食い込んでいくように絞られていく。
「ランサさんといいましたか? 流石に優等生です。だからこそ打つ手が分かる」
男はゆっくりと一歩踏み出す。
「掛けられている術式が上級だと見るや、即座に上書きを掛ける。判断としては間違ってはいない。術式も完璧だった。でもそれではダメなのですよ」
あざ笑うかのように、憐れむかのように、男は腕を見つめている、残酷な視線で。
「さ、聖女様、右腕にさよならを」
微妙に男の口角が上がる。表情の変化は微細だが、いかにも楽しげだ。さらに糸が絞られ、腕が細切れに裁断される。
「なぜ……」
ランサは声を引き絞る。
時間がゆっくりと流れる。ここまでの苦労が全て水泡に帰す。ユリシスは左腕を伸ばす。
なくなってしまう。返して私の腕、ユリシスは胸の中で叫び声を上げる。
「ん? どうした? 術式は完璧に発動したはず……」
男が首を傾げる。肉片と化した腕が中空にとどまったまま落ちて来ないのだ。男にとっては予想外なのだろう。表情には出さないが、目に少しだけ動揺が走ったのをユリシスは見逃さなかった。どうやら男の予想とは違っているらしい。
肉片に変化が起こる。再び光出し、粒子となったのだ。
「ボクたちの勝ちだよ、ユリシス。上手くはまってくれた。そこの人、ご苦労さんだったね」
光の粒子が束になり、ユリシスの右腕へと収束していく。ユリシスには何が起こっているの分からない。
「あの夜、襲撃があったよね。その時腕を切り離された。その瞬間に術式を埋め込んでいたんだよ」
ハッシキの種明かしが部屋中に響き渡る。
「効果は再生。発生条件は破壊。勝ったと思ったでしょ? 本当に痛み入るよ」
ユリシスは戻ってきた腕をじっとみて、左手でそっと触れる。やっと返ってきたんだ。
「ユリシス、悪いけどちょっと右腕、借りちゃうよ」
ハッシキがそう言うと、腕が剣状になり、男へと光の速さで向かっていき、その右腕を貫く。そしてそのまま尖塔の壁へと突き刺さる。縫い付けたのだ。
「そこの人、ボクは忘れていないよ。気配で分かっちゃったよ。あんたが暗殺の実行犯だ。逃さない」
ここで初めて男が表情を大きく崩す。
男は持っていた短剣を引き抜くと、自分の右腕を肩から切り離す。思い切った判断だ。身動きを取るための最善の手だが、それをするのには勇気と決断力が必要だ。いや、それ以前に暗殺者は自分にも非情なのだ。身体は単なる道具でしかない。
「さすがに場数を踏んでいるね。でも逃さない。ランサ、ロボ、ユリシス、準備はいいかな? 派手に踊って帰るとしよう。ダンスの時間だよ」
ハッシキの一言で開幕のベルがなった。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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