第71話 行方
部屋を抜けると通路になっていた。どちらに向かえばいいのかわからない。闇雲に動き回るとそれだけ見つかりやすいし時間もかかる道理だ。
「ハッシキどっち!」
我ながら声が上ずっているとユリシスは感じた。戦闘で気持ちも高揚しているし、命を奪ったという重みも感じ始めている。
「左でも右でも距離は一緒ぐらいだよ」
つまりこの建物は左右対称に作られている。そして、目指す場所は一番奥なのだ。
「よりどちらに敵が潜んでいるか分かればいいんだけど……」
流石にそこまでハッシキに望むのは難しい注文だ。
「左にするわ!」
ユリシスの言葉に併せて一斉に通路を左へと進む。
「なぜ左なんだい? まあ勘だとはおもうけれどもね。ボクはユリシスの勘、嫌いじゃないよ、何となくだけどね」
説明している時間が惜しいので説明しなかったが、理由はある。ユリシスには左腕があるからだ。ただの勘であるのは間違いはないのだが。
通路には左右に扉がある。小部屋になっているようだ。司祭の執務室であったり、職員の事務所だったりするのだろう。時折中から人が飛び出してくるが、非戦闘員は無視して進む。状況が分からないのだろう。ユリシスたちが通り抜けても驚きの声を上げるだけだ。
通路幾つか曲がり、最後に左に折れると、その先に、部屋のものとは明らかに違う様相の扉が見えた。手を掛けたが開かない。鍵が掛かっているのか聖霊術が施されているのかどちらかだ。
「待ってろすぐに破壊する」
扉の前でロボが擬態を解く。ロボ本来の白銀の毛に包まれたフェンリルが姿を表す。通路はロボの身体より少し狭いようだ。壁がきしむ。ロボはそのまま前方向に力を加えると、口を開き咆哮を上げる。壁ごと扉が吹き飛ぶ。瓦礫が通路に散乱する。煙が上がる。
「ロボ大丈夫?」
煙の中から擬態した子狼が戻ってくる。
「単純に頑丈な鍵が掛けられていただけのようだ。ちょっと大げさになってしまったが問題ないだろう。急ごう」
通路は一直線だ。どうやら大聖堂と政庁を結んでいるようだ。真っ直ぐに走っていく。ロボはすでに擬態している。この通路の狭さだ、擬態していても戦闘力が落ちないのは皆にとっても頼りになる。
正面にも先ほどと同じような扉がある。
「突き破るぞ!」
先頭を行くロボの咆哮で扉は簡単に破壊される。ここから先は恐らく政庁区画、一般信者ではまず立ち入りができない場所だ。騒ぎを聞きつけたのか左右の扉から職員と思われる人々が廊下に溢れている。
ユリシスは左腕を突き出し、中指に力を込め、空間に文様を刻む。
「数が多い。どこまで届くか。行きます! ヴァルム・セング!」
騒いでいた職員たちが急に静かになり、その場に倒れ込む。視界が開ける。
「上手くいった。眠らせたのしばらくは起きてはきません」
ランサは睡眠誘導術式を前方に向かって展開したのだ。あの時の訓練を思い出す。ランサも必死になって訓練を積んだのだ。三人にとってあの時間は無駄ではなかったと思いたい。戦闘は可能な限り避けたいが、状況がそれを許せばだ。
「階段はないかな、右手上から腕の気配がする」
周囲を見渡すが階段らしきものはない。扉すら見当たらない。
「街でも動いているようですし、大聖堂でも爆発がありました。ここでもやってしまいましょう。探している時間が面倒です。皆、私の後ろへ。結界を張ります。ヴァリゲ・ショール!」
三人を結界が包むのを各にするとランサがユリシスに声を掛ける。
「姫様、このあたりを吹き飛ばしてください」
ユリシスはようやく理解した。階段をえぐり出すのだ。ユリシスは聖刻神器に聖霊力を注ぎ込む。爆発の大きさをイメージする。この通路の幅の三倍ほどを想定する。聖刻神器に力を籠める。
「グラベーリン! ブラン・エクスプロデル・フローマ!」
大きな火球、爆炎術式が通路に吸い込まれるように展開され、閃光を放つ。同時に空気を震わせる振動が伝わってくる。爆炎で壁が削られ、床が抉られる。結界に瓦礫が当たっては後ろへと飛ばされていく。立ち込める煙の中、右手下方に目を凝らす。
視界が晴れてくる。
「あったわ、あそこに階段がある」
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます