第31話 王国
聖地を奪還して、二日目には中軍を率いるゲルゲオ王太子が到着した。その中軍から、後続の各国へと伝令が走る。
「聖地は奪い返した。これ以上戦闘はない。各国首脳のみ聖地へと参集してほしい」
もちろん今後のリリーシュタット王国の行末を決める会議を開くためだ。各国首脳に先立って聖地へと入ったジオジオーノとゲルゲオは、ユリシスを交えて会談をもっている。
いち早く援助を申し出たグランジウム王国と、兵を率いて駆けつけたザビーネ王国には大きな発言権がある。もちろん、実際に戦ったユリシスにもその権利がある。三者主導で会議が進むのは目に見えて明らかだ。事前に根回しをしていたとしても文句の出ようはない。
ユリシスは還俗はしないといジオジオーノには伝えている。議題のひとつは王位の継承をどうするかだ。
「それに関しては腹案がある。まあ至って順当な線ではあるので聖女様にも異論はないと愚考しておりますよ」
ゲルゲオの提案は至って穏やかなものだった。
「聖女様の長姉ネスター・ランド様所生の第二子レグルス様と、三姉プレドリア様つまりジオジオーノ陛下のお妃がお産みになられたリカ様に王家を継いでいただく」
従兄妹同士を結婚させ、リリーシュタット王家の存続を図るという案だ。二人にはリリーシュタット直系の血が入っている。年頃も釣り合いが取れているので障害はない。各国から反対の声が挙がる可能性も低い。
「条件があるのだが……」
ジオジオーノの発言もある意味、まっとうだった。
「我が娘リカももちろんだが、レグルス殿下もまだ若い。後見が必要だと思われるが」
その役目をジオジオーノが引き受けるというのだ。
「それともうひとり聖女様にもお願いしたい」
自分の名前が出てユリシスは驚いた。確かに二人はユリシスにとって甥と姪にあたるが、年齢的にはそれほどの違いはない。長女ネスターとも三女プレドリアとも歳が離れているからだ。さらに自分自身でも分かってはいるがユリシスの政治的手腕は未知数だ。もちろん心の支えにはなれる。期待されているのはその部分が大きいのかもしれない。
「国元とここを行ったり来たりする必要もあるだろうがための処置だと思し召しください。私がいない間、面倒をみてもらいたいのですよ」
ユリシスは知らない間に左手の中指を触っていた。右手には手袋を着けているが、左手はその灰色の肌をさらしている。中指の装飾物があるためだ。ゲルゲオもジオジオーノも気がついていた。
「聖女様左手のそれは一体……」
隠し立てする必要はどこにもない。
「あぁ、これは神の聖なる心臓ですよ。先代の聖女ロロ・ロア様から引き継いだものなのです。聖なる心臓を得てはじめて本当の聖女となるという言い伝え通りです。私にだけその在処が伝えられていたのです」
二人が嘆息を漏らす。実はゲルゲオはユリシスに瞠目していた。戦前に比べて一回り大きくなったと実感したのだ。戦いを経験したためかその存在に威厳と重みが加わっていると思っていたのだが、聖女の秘蹟を引き継いでいたとは。ゲルゲオは納得せざるを得ない。ジオジオーノの言う通り、後見の一人として立ってもらう必要がある。
「後見に関しては異存はございません。委細承知でございます。王位の継承についてはいかがでしょう?」
ジオジオーノもうなずいている。ユリシスにも異論はない。
「それでは急ぎお二方をお呼びせねばなりません。ランド王国には私から連絡を入れておきます。陛下にはリカ様にご一報を」
これで王位の問題にはひとまずケリがついた。
「ナザレットに関しては何か情報を掴んでおいででしょうか、陛下?」
その問にジオジオーノは口を濁らせる。怪訝な表情でゲルゲオが二人を見る。
「我々は聖地という花は得た。しかし、実を持っていったのはナザレット。我々にはもう手が届かない……」
まるで独り言のようにジオジオーノはつぶやいた。
「どういう意味でしょうか?」
ゲルゲオの言葉に応えるように、ユリシスはジオジオーノを一瞥すると口を開いた。
「レストロア王国が落ちます。ナザレットの支配下に入るでしょう。もう手遅れかと」
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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