第29話 神像

「今後の展開は今後に任せましょう」


 ジオジオーノとの会談を終えたユリシスは、多少の不安を残しつつ部屋を出た。今この王城に詰めている兵は二千弱。とても現状をひっくり返せるだけの兵力ではない。


「ランサにロボ、そしてハッシキも着いてきてくれるかしら?」


 自室に戻るとユリシスは法衣を脱ぎ捨てる。


「どこでも、どこまでも一生お供致します姫様」


 ロボも同様だと言わんばかりにうなずいている。


「ボクは魂だからね。身体とは切り離されないから、一緒に行くしかないんだけど、まあいいよ。どこでも行くさ」


 乗馬服のような動きやすい服装に着替えながら、ランサにも同じような格好をするように、ユリシスは伝える。


「もちろん一生、着いてきてもらいたいけれども、今からいくのは教会よ。ちょっと忘れ物を取りにいかないといけないのよ」


 教会は灰燼に帰し廃墟同然となっている。敵兵も放棄していたぐらいだ。そこに一体何があるというのか? 教会は王城からほど近い。道があちこち破損しているため、馬車は使えない。みんな揃って徒歩で向かう。

 巨大で壮麗であった教会は見るも無惨な姿をさらしていた。そうと言われなければここが教会だったとは誰にも分からないほどに破壊されている。


「ずいぶんとひどい有様だな。で、ここで一体何を探すんだ姫様」


 貴方が絶対に必要なのよ、そう言いながらユリシスはロボの首筋をなでる。


「あった。あそこだわ」


 ユリシスが指差したのは、神像だった。流石に破壊はされていない。神の像を壊すほど敵も冒涜ではなかったようだ。所々傷んではいるが、さすがに聖地大聖堂に安置されている神像だ。他の教会のものと比べると格の違いが分かる。


「ロボ、こっちへ来てもらえるかしら?」


 ユリシスが神像の裏手から声を掛ける。快活さを装っているのだろう。声には張りがある。聖女とは言ってもユリシスは元王族だ。心臓に宿痾を抱えていたので、引っ込み思案だったのだが、その心臓も完全に機能するようになって、元々の性格がにじみ出てきているのかもしれない。多少わがままな一面あったとしても、ユリシスの場合はそれが魅力の一つになる、そうランサはユリシスを見ながら思う。


「ここよ。ここに身体を押し当てて欲しいの」


 ロボが神像に身体を押し当てると、まるで油の上を滑るように神像が動き、扉があらわれた。三人は驚きを隠せないが、ユリシスは平然としている。


「本当は、戴冠式の後に来る予定だったのよ。それがダメになってしまって……。二度と戻れないと思っていた。でもなんとかたどり付けたわ。少しほっとしているの」


 扉の向こうには階段が続き、その先はダンジョンになっている。かなりの規模だが、迷わなければ夕方までには戻ってこられるはずだ。


「しかし、迷う可能性がある以上、一旦戻っていろいろ準備をしてからがよろしいのではないでしょうか?」


 ランサの意見がもっともなようだが、ユリシスは意に介さない。


「もともと探索目的であるとか敵の殲滅のためのダンジョンではないの。言ってみれば隠し倉庫みたいなものかしら。どこかに通じているわけではなく、行き止まりがあるわ」


 階段は一直線に伸びている。足元に注意しながらゆっくりと進んでいく。明かりはもちろん無いが、階段部分には陽の光が差す。


「イザロの炎」


 ユリシスとランサはほぼ同時に聖霊術を発動させる。掌に炎が灯る。これで足元はぐっと見やすくなった。ロボはもともと夜目が効く。ロボを先頭に、ユリシス、ランサと続いていく。


「ボク、このダンジョン知ってるような気がする。何が隠してあるのかも分かる」


 ハッシキの声がダンジョンにこだまする。皆一様に驚きを隠せない。


「私だって話しで聞いていただけのダンジョンなのよ。なんでハッシキが知っているの? 別に内緒にしていた訳ではないけれども……」


 階段を降りきって道は平坦になる。ここから先は幾つかに枝分かれしているはずだとハッシキは言う。

 二股に分かれている箇所に行き当たった。


「右だよ。間違いない。はっきりと分かる」


 一応印をつけて、右へと進む。

 何度か枝分かれした道を進んだ。どれだけ右に左にと曲がっただろうか。


「ここだよ。ほら扉が見える」


 炎で照らされた先には見事な装飾が施された扉があった。


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

https://kakuyomu.jp/works/16817139557963428581#reviews

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