第27話 賛同

 部屋に入るとそこにいたのはジオジオーノ・ザビーネ国王とその副官だけだった。平服ではなく軍服に身を包んでいる。

 今後の打ち合わせと聞いていたのだが、少し拍子抜けだ。


「実は、ゲルゲオ王太子が率いる中軍はまだ到着しておりません。明後日ぐらいには、という報告が入ってはいます。到着前に私と聖女様とですり合わせをしたいと思ってお呼びだて致しました。ご了解ください」


 要は各国の軍勢が到着するまでに根回しをしておきたいという腹積もりのようだ。


「午後から教会の視察に行く予定にしておりますので、それまでであれば大丈夫でございますよ、陛下」


 自らの意図を察してくれたと理解したようだ。ジオジオーノはユリシスに席を勧める。ユリシスが座るとその後ろにランサが立つ。ロボは部屋の前に待機だ。


「それでは時間もございませんので、単刀直入に申し上げます」


 ユリシスは驚いた。ジオジオーノの申し出はかなり思い切ったものだったからだ。


「還俗する気はございませんか、聖女様」


 本気であるのであれば面白くないし、冗談であるのならば不快であった。


「ありません」


 ユリシスの答えは明快だった。王家の跡継ぎは人が決めればいい。聖女の身分は人間の決めれる範疇を超えているのだ。


「陛下におかれては、聖女の代わりになる者をご存知なのでしょうか? そうであるのであれば考えなくもありませんが」


 ユリシスの不快げな様子にむしろ得心がいったという顔つきでジオジオーノは肩肘をつく。


「いや失礼いたしました。しかし、リリーシュタット家を再興する一つの手立てであるのもまた確かなのです」


 リリーシュタット家の男子は絶えた。未婚の王女もいない。いるとすれば聖女となったユリシスだけなのだ。


「貴方が王位を主張すれば、簡単に女王になれるのです。誰も反対はできない。納得するしかないのですが、そのお気持ちがないのであれば別の手が必要になります。私はリリーシュタット王国を存続させたいと思う者でございますよ」


 ここでユリシスは微笑んだ。最初から還俗などする気がないと分かっていたのだ。では誰を王位につけるか、それをここで内々に方向付けしたい、それが真意なのだ。


「私は政治に疎く、王位に興味もありません」


 しかも、この戦いは自分一人で起こしたものでもなく、諸国の協力があって初めて成立した。国際的な動きの均衡が取れる形であればどうでもいい。それが答えだ。

 王家の絶滅で、事実上、リリーシュタット家は崩壊した。聖地は奪還したが、それは王都が回復したという意味ではない。今でも地方では戦いが続いている。予断は許されないが、各国が力を貸してくれるのは聖地の奪回までだ。


「軍事的な不透明を解決するためにも王家の復興は必須だと考えています」


 要するにジオジオーノの考えに賛同してくれと言っているのだ。


「聖地奪還の第一の功労者である陛下のお考えに反対など致しません。私は陛下のご手腕に期待する者であるとお答えしたいと思います。これでよろしいでしょうか?」


 ユリシスが手を差し出すと、ジオジオーノはゆっくりと握り返してきた。身体は細くしなやかな印象だが、剣の鍛錬を絶えず行っているのだろう、王族の手ではなく武人の手を思わせる。


「これでリリーシュタット家は復興するでしょう。あとは展開というよりも、ナザレットの動き次第になりますが、幾つかケーズが考えられます。それは諸国首脳が集まってからの会議に委ねましょう」


 地方での戦いの様子をジオジオーノは説明してくれた。どうやら聖地を奪取したあと、軍を分散させて、各地の攻略を行っているが、落ちた街は今のところ一つもない。戦略的にいかにも稚拙なのだ。


「そう言えばここを守っていた頭首が言っていました。聖地が奪い返されるのも作戦通りなのだと。一体どういう意味なのでしょうか?」


 いくら政治軍事に疎いユリシスでも理解できた。今行われている一見無意味な戦闘も何らかの戦略的要素の一つなのではないだろうか?


「地図を!」


 副官が持ってきた地図を机の上に広げるとジオジオーノは小さくうなった。


「あちらの方が一枚上手だったようです。先手を取られ、取り返したと思ったのは錯覚だった」


 ジオジオーノは地図の一点を指さした。


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。聖女系の小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、ゆっくりペースでも気にならないという読者の皆様、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

https://kakuyomu.jp/works/16817139557963428581#reviews

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