第80話 罠・・なのか?


どれくらい歩いただろうか。

これだけの距離を引きずったとなると、相当な体力の魔物だ。

間違いなく1階層などにいる魔物ではない。

オーガかオーク・・いや、それ以外の魔物かもしれない。

引きずられた痕跡は、そのまま2階層へと向かっていた。

まるで誘われているかのような気がするが、進まないわけにはいかない。

ジョーが一度振り返り、皆の顔を見る。

不安そうな表情だ。

だが、彼らの支援も必要なのは間違いない。

戦うのは自分でいいとしても、無敵ではない。

誰かが支援してくれなければ、戦えるものではない。

ジョーは微笑みながらサラ達を見る。


「君たち、そんな不安そうな顔をしていると戦う時に身体が動かないぞ。 それに戦うのは自分がメインだ。 君たちは支援してくれるだけでいい」

ジョーのせめてもの気遣いの言葉だったろう。

その言葉だけでどれだけ落ち着くことか。


2階層に侵入。

幾何学的な光る模様の枠を出て歩みを進める。

ここでもやはり引きずった跡がある。

一体どこまで続くのだろうか。

それにしても、この痕跡があるところには魔物との遭遇はない。

それが余計に不気味さを増す。

薄暗い静かな空間をジョーたちが進む。

・・・

2階層に魔物は存在しなかった。

こんなことは初めてだ。

その不気味さが余計に警戒心を高めた。

ジョー以外は緊張で胸が締め付けられるような感じだ。

サラは特に変化なし。


3階層に侵入。

やはり引きずられた跡がある。

だが、この階層に入った瞬間にわかる。

魔物がいる。

ジョーがサラの方を見ると、サラがうなずく。

この2人の間に言葉はいらないようだ。

サラの持つスキルに光の恩寵なるものがある。

回復スキルの上位互換のようなものだ。

光を灯すことができた。

サラの手から上空へと光の粒が舞い上がって行き、大きく弾けた。

辺りの薄暗い景色が、まるで昼間のような明るさとなった。

これで1時間くらいは光に不自由はしないだろう。

!!

全員が絶句する。

人の形をしたものが山積みにされていた。

生きているのか死んでいるのかわからない。

ただその服装には見覚えがあった。

キースたちが身に着けていたものだ。


人の山の上に小さな生き物がひょっこりと現れた。

ニヤニヤしながら足元の人に短剣のようなものを突き刺していた。

「うぐぅ・・」

刺された人? は、うめき声をあげる。


「生きているのか?」

ジョーは思わず見入ってしまう。

小さな生き物はゴブリンだった。

すぐにゴブリン達は増え、あっと言う間に20体ほどになった。

そして、その後ろからオーガが現れる。

「グフフ・・なるほど、の言う通りだ。 エサを見せれば人が釣れるというのは本当だな」

オーガが5体いて、しゃべっていた。


ジョーとサラ以外の人たちは現状に驚き、身体が震えている。

オーガキングだった。

横にはオーガクイーンだろうか、普通のオーガとはタイプが違う。

この2匹だけは特別な感じがする。

それにしても、普通なら4階層か5階層にいるような魔物だ。

それがどうしてこんなところに・・。

ジョーは不思議に思うが、今は目の前の状況を解決しなければならない。


「君たち、しっかりしろ! 俺が道を作る、君たちは支援を頼む」

ジョーはそう告げると、右手にロングソードを持ち、人が山積みにされた方へ歩いて行く。

ゴブリン達が猿のように飛び跳ね、喜んでいるようだ。

中には弓を持っているものもいる。

ジョーに向けて矢を放つ。

キン!

ジョーの身体に触れることなく、何かに弾かれたように落下。


ゴブリンの弓隊だろうか。

今度は5匹くらいが一斉にジョーに向けて矢を放つ。

すべての矢がジョーの周りで落下する。

ジョーの身体を金色の光の膜が覆っていた。

身体強化の上位版だ。

相手の攻撃の威力を減殺する。

レベル差があれば、攻撃が効くことはない。

ジョーとゴブリンでは圧倒的に差があった。

ジョーはロングソードを肩に担ぐと、一気にゴブリンとの距離を詰める。

人の山に登っていたゴブリン達は地面に降り、オーガキングの後ろに隠れた。

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