お願いします【拓夢】

スタジオについて、車を降りる。


「おはよう」


「相沢さん、これ家の鍵です」


「了解。3時だったよね?」


「はい」


「それも、持っていく?」


「あっ、お願いします」


俺は、相沢さんに紙袋を渡した。母親が来れなくなって、どうにかするつもりだったけどどうにもならなくて…。俺は、相沢さんにメッセージを送ったのだった。


「もっと早く言ってくれたら、あっちも立ち会ったのに…」


「すみません。ギリギリまで、考えたかったんで」


昨日お風呂から上がってメッセージをすると相沢さんはすぐに大丈夫だよと返してくれたのだった。


「管理人さんなら、大丈夫だね」


「はい」


「それじゃあ、頑張って」


「よろしくお願いします」


俺は、相沢さんに頭を下げてから皆の所に行った。


「おはよう」


「おはよう」


「おはよう」


「おはよう」


俺達は、顔を見合わせながら、そう言った。


「今日は、ジャケット写真だっけ?」


「そうそう。二曲目の」


「拓夢とまっつんは、レコーディングだろ?俺としゅんは、雑誌の撮影」


そう言って、かねやんが笑った。


「何の雑誌?」


「これらしいよ」


かねやんが、持ってる雑誌を見せてきた。


「へー。凄いな」


「だろ?これ、有名らしい」


「女性の雑誌だよな?」


「そうそう」


いつも通りだった。まっつんが、凹んでる以外はいつもと変わらない風景だった。


撮影は、順調に進んでいき、昼休憩を挟んで終わったのは14時過ぎだった。


「お疲れさまでした」


『お疲れさまでした』


俺達は、深々と頭を下げた。かねやんとしゅんは、雑誌の撮影があるスタジオに行くとタクシーに乗り込んだ。俺とまっつんは、レコーディングスタジオに向かう為の車に乗り込んだ。


「目、腫れてたけど」


まっつんは、そう言って俺の事を見た。


「色々あったんだよ。まっつんだって、目腫れてるよ」


「色々な」


カーテンの閉まった車内で、まっつんはそう言いながら窓に頭をつけていた。


「結婚出来るって」


「相沢さんが何とかするって」


「じゃあ、絶対大丈夫だよ」


「どうかな?」


まっつんは、そう言いながら目を伏せていた。


「大丈夫だよ。まっつんと理沙ちゃんなら」


「だったら、いいけどな」


まっつんは、そう言った。俺は、まっつんに何て言葉をかけていいかわからなくて…。まっつんもまた何も話さなかった。車内には重苦しい空気だけが漂い続けていて…。レコーディングスタジオに何事もなく入った俺達は、言葉を交わさないままに収録を終えていた。


「凄くよかったよ!苦しみや悲しみがちゃんと伝わってきた。その奥にある希望もね…。お疲れさま」


『ありがとうございます。お疲れさまでした』


俺とまっつんは深々と頭を下げてから、レコーディングスタジオを後にした。


時刻は、夜の19時を回っていてスタジオから出ると相沢さんが待っていた。

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