久々の向こう【拓夢】

智天使ケルビムが、デビューイベントにシークレットでやってきてくれたお陰と、智天使ケルビムのジュンの宣伝のお陰で、SNOWROSEは、その日のうちに話題になり、僅か二週間で売れた。


俺は、バタバタしていたせいで、部屋を引き払う事がまだ出来ていなかった。俺達は、この3ヶ月休みなしに働いていた。


「やっと、休みだよ!今まで、働き方改革に守られてきたのにな」


「確かに」


かねやんとしゅんも疲れ果てていた。


「俺もやっと、やっと理沙に会えるわ!」


まっつんは、そう言いながら笑っていた。


「明日から、五日間はゆっくり過ごして」


相沢さんがやってきて、そう言った。


「休み明けは、雑誌の撮影と新しい曲のレコーディングが入ってるから!」


『はい』


二曲目のシングルの歌詞は、もうとっくに出来ていた。


「じゃあ、お疲れ様」


『お疲れ様でした』


俺達は、相沢さんに深々と頭を下げた。


「後、三ヶ月らしいよ!相沢さんが、マネージャーでいてくれんの」


かねやんの言葉に、俺はガッカリしていた。


「拓夢は、向こうの部屋引き払うんだろ?」


「ああ!会社に忘れてた荷物や引き継ぎの残りあって!今日中に会社行ってやってくるわ!それから、残りの片付けするかな」


「まだ、二時半だしな!」


「今日は、早く終わったからね!まっつんは、理沙ちゃんにプロポーズか?」


かねやんは、ニコニコ笑った。


「今日は、ちげーよ。久しぶりに、迎えに行くだけだよ」


そう言って、まっつんは笑っていた。


「じゃあ、帰るわ」


「気をつけて」


まっつんは、先に出て行った。


「じゃあ、俺も行くよ」


「拓夢、凛さんとは?」


「会わないよ。今の俺が会っちゃいけないだろ?」


「そっか!そうだよな。色々あったしな」


「うん」


「まあ、でもさ…。久しぶりに元気?って連絡してみろよ!」


「考えてみるわ!じゃあ」


俺は、かねやんに手を振った。


「気をつけて」


俺は、事務所をあとにした。都会(こっち)では、四人全員が同じマンションの同じ階に住んでいた。今は、その方がいいと相沢さんに言われたからだ。俺は、帽子を深く被った。


駅について、電車に乗る。吊り下げ広告に、【SNOWROSE】の文字が書かれているのを見つけた。何だか、くすぐったい。


まだ、夢の中にいるようで…。実感が湧かなかった。会社のある駅で、降りる。

俺は、久々に会社にやってきていた。


「先輩、久しぶりですね」


「溝口、元気だったか」


「はい」


たまたま、溝口に会った。俺は、一緒に歩いた。


「サインもらえるか?」


「課長、勿論です」


俺は、課長が差し出したCDにサインをした。


「荷物、纏めといてあるぞ」


「助かります」


俺は、紙袋に入った荷物を手に取った。


「長い間、お世話になりました。ありがとうございました」


皆さんに、頭を下げる。パチパチと拍手が鳴り響いた。


「溝口、送ってやれ」


「はい」


「送りますよ」


「ありがとう」


俺は、溝口について行く。いつもの社用車に乗り込んだ。三ヶ月しか経ってないのに、懐かしかった。


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