相沢さんが、車を走らせる。俺は、流れる景色を見つめていた。ずっとSNOWROSEで有名になりたいと考えていた。でも、それってどういう意味でだったのだろうか？

さっき、相沢さんが言った足元にある現実。俺は、それとちゃんと向き合って生きてきたのだろうか？

「ごめんね。考え事してる時に…」

相沢さんの声に「いえ」と呟いた。

「星村君の家わかるから、そこでいいかな？」

「お願いします」

俺は、そう言って頭を下げる。

「星村君」

「はい」

「星村君の足元に散らばってる現実は、悪くないと思うよ」

俺の考えを見透かしてるように、相沢さんが話した。

「そうでしょうか？」

俺は、よくわからなくてそう言った。

「そうだよ！だから、俺は君達に興味を持った。足元に咲いてる花に気づかないような人間は、空の青さに押し潰されるんだよ」

相沢さんの言葉が胸に染み込んでいく。

「さっきの話ですね。足元の現実と頭の理想」

俺の言葉に、相沢さんはハハハと声を出して笑った。

「そうだね！」

「現実と理想のギャップが大きい方がいいって聞いた事ありましたけどね」

俺の言葉に、相沢さんは、「うーん」と唸っていた。

「そんなにギャップがあると、しんどくないかな？ほら、垂直の坂は登れないでしょ」

その言葉に、昔みたバラエティー番組を思い出した。芸人さんが、垂直の坂を駆け上がるけれど、皆、滑り落ちていくのだ。誰一人成功しないまま、その番組は打ち切られた。

「高い理想を語るって何かアーティストとしてはかっこいいけど…。現実は、それに押し潰されて。血反吐、吐くような痛みや苦しみを味わうだけなんだよ！だから、俺はいつも言ってるよ。足元の現実見れないような人間は駄目だってね」

相沢さんの言葉に、俺は何故か泣いていた。

「夢ってのは、足元の現実を積み上げた先にあるもんだって俺は思うようになったんだよ。だから、俺はバンドデビューの夢は諦めた。だって、俺にはその才能も運もなかったから…。努力だけじゃ、それをカバー出来なかったわけだよ」

俺は、小さな声で「はい」と言うのが精一杯だった。

「何か酷い大人だよね。いつから、こんなに腐っちゃったのかね」

そう言いながら、相沢さんは笑っていた。そんな事ありませんよって言ってあげたかったけど、言葉を出せる状態ではなかった。そんな俺に気づいたのか、相沢さんはもう何も話さなかった。

俺は、凛を救えなかった。凛の理想を叶えてやる為の一部にすらなれなかった。コツコツと積み上げた先にあるのが夢なら…。凛の夢が叶う日まで、寄り添うべきだったのではないだろうか？

相沢さんの命は無理だよなって言葉が、俺の胸を締め付けてくる。命であるのをわかっていながら諦めたくなかった凛の痛みを思って泣いていた。

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