クリーニング屋
私は、駅前のクリーニング屋さんまで歩いてきた。
「凛ちゃん!!」
誰かに呼ばれた気がして、立ち止まった。
「やっぱり、凛ちゃんだー。久しぶり」
「あっ、うん。久しぶり」
会ったのは、加奈ちゃんだった。
「ここら辺に住んでるの?」
「うん。加奈ちゃんも?」
「私は、一駅向こうなんだけどね!旦那が働いてるから、たまたま忘れ物届けに」
「そうなんだ」
加奈ちゃんは、大きなお腹を抱えながらニコニコ笑っていた。
「凛ちゃんに会えるとか嬉しい。凄く久しぶりだね!」
「そうだね」
「番号教えてよ」
「うん。いいよ!」
嫌だとは言えなくて、そう言うしかなくて私は、番号を伝えた。
「雪乃ちゃんも妊娠したの知ってる?」
「うん」
知らないわけがなかった。
「凛ちゃんと雪乃ちゃんと仲良かったもんね!登録出来たから、メッセージするね」
加奈ちゃんは、私にそう言うとメッセージを送ってきた。
「それ、私」
「登録しとくね」
「うん」
ニコニコ嬉しそうな加奈ちゃん。私は、何も嬉しくなどなかった。
「一人目?」
私は、聞くしかなくて、そう言った。
「そうそう。治療でね!雪乃ちゃんと同じ病院なの。凛ちゃんは、子供は?」
「私は、まだ」
まだじゃない。出来ないんだ。なのに、私は、見栄を張る。
「そっか!でも、40歳で初産は大変なんだって!だから、早くつくった方がいいよ」
「そうだね」
「今行ってる不妊治療のとこならすぐに出来たから!教えてあげようか?」
「あっ、うん」
「メッセージで送るね」
「うん、ありがとう」
ぎこちないけど笑えたよね。
「凛ちゃん、また今度ゆっくりご飯でも行かない?」
「うん、そうだね」
行きたくなんかないくせに、何言ってんの私。
「ごめん。旦那の親と会うんだ。また、産まれて落ち着いたらご飯行こうね!バイバイ」
「うん、バイバイ」
うんじゃなくて、嫌って言えよ!言えなかった自分に嫌悪感。私は、加奈ちゃんが見えなくなるまで見つめていた。
苦しくて消えたい。泣きそうになるのを堪えながら歩く。クリーニング屋さんに入って、スーツを出す。
「ありがとうございました」
お店を出た瞬間。雨が降ってきた。グットタイミング!
私は、そのまま歩き出した。
人生って悪い事ばかりじゃないって聞いたはずなのに…。おかしくない?
私は、今、悪い事しか起こっていない気がするよ。
涙が流れるけど、雨のお陰で見えなくて嬉しい。
拓夢と不倫したツケが回ってきたのだと思う。龍ちゃんを裏切った罰なのだ。
絶望を拭う為に、私が求めた快楽。その快楽を得た、代償を払う。ただ、それだけの事なのに…。
何で、私ばかりって思いが
「龍ちゃん、助けて」
誰に言う訳じゃない声で、呟いた。
パチパチ、パチパチ…
何故か、雨の音が少し静かになった気がした。
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