もう一度、出掛けよう

私は、口元を押さえながら笑いを堪える。龍ちゃんが、慌てていた様子が私にはきちんとわかる。


きっと、あの日みたいに慌てたんでしょ?

付き合って、半年目、私は、龍ちゃんに怒っていた。


「もう、龍次郎君には会わないから」


一方的に電話を切ったのを覚えている。


次の日、遊びに来ていた母が、窓の外を見ながら、「あの人、風邪ひいちゃいそうね」って言うから私も一緒に見つめた。


そしたら、龍ちゃんがいて驚いた。


雨の中、傘もささずに立っていた。


私は、気にしないフリをして母と話したりお茶をした。


二時間後、「じゃあ、帰るわね」と母は帰って行った。


私は、母を玄関で見送り。もういないだろうと窓の外を見た。


驚いた事に、龍ちゃんはまだいた。


何だか怒ってるのが馬鹿らしくなって、私は窓の外を見ながら龍ちゃんに電話をした。


携帯を取り出そうと慌てて、地面に落とす龍ちゃん。吹き出しそうになった。


『もしもしもしもしもしもし』


電話に出たと思ったら、龍ちゃんはそう言った。


「アハハハ、何それ」


私は、お腹を抱えて笑ってしまう。


『凛ちゃんが笑ってるならよかったです』


ガタガタと唇を震わせながら、話してくる。


「風邪引くよ!芯から冷えてるでしょ?お風呂入りに来たら?」


私の言葉に龍ちゃんは、「いいの?」と言った後で「行きます」とすぐに言い直した。


滑るようにしながら、走る姿が見えたから、私は、急いでお風呂にお湯をために行きシャワーを捻った。


ガン、ピンポーンとインターホンが鳴る音が聞こえたから、バスタオルを取って玄関を開けた。


龍ちゃんにバスタオルを差し出した。


「ありがとう、ありがとう、ありがとう」


そう言って、私の手を握りしめた龍ちゃんの手は冷たかった。


春雨はるさめが、龍ちゃんの体を芯から冷やし、唇を青く染めていた。


「お風呂入って、こんなに体が冷えてると風邪ひいちゃうよ」


「そんな事どうだっていい。凛ちゃんが許してくれただけで、それだけでいい」


皆月龍次郎が、初めて涙を見せてきた日だったと思う。


その時、私は龍ちゃんに、惹かれ始めた胸の鼓動に気づいてしまった。


「龍次郎君、風邪引いて死んじゃったりしたら嫌だよ」


私は、龍ちゃんを抱き締めて体を擦った。


「死なないよ。大丈夫」


そう言って、龍ちゃんは私を抱き締めてきた。


私は、懐かしいあの日を思い出してホッコリした胸に手を当てて立ち上がった。


「さて、クリーニング屋さんに行こう」


袋をもって、玄関を出る。


龍ちゃんの事を思い出すとニコニコしてしまう。ちゃんと重ねた歳月は、私のなかに存在している。


私は、鍵を閉めて歩き出した。

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