何をどう頑張ったって…

ブー、ブー


私は、その音に抱き締めていたスマホを覗き込んだ。


【歯磨き終わったから、いつでも降りてきて!寝るから、おやすみ】


そのメッセージに安心する。


ブブ


龍ちゃんに送ろうと思って何か変な所を触ってしまった。

通知をしないに設定しておくべきだった。


【まさかの順調!天使ちゃん、すくすく成長してます。流産は、大丈夫かな?って思えたから、初めての肌着を買ってきました!】


雪乃のSNSを見てしまった。


「最悪」


そう言いながらも、私はコメントを見てしまう。


【雪乃がママとか素敵すぎる】

【こっちは、楽しいよ】


並んでるメッセージに吐き気を覚えてきった。


どんなに努力しても、頑張っても、頭がよくても、お金を積んでも、手に入らないのは命。


私は、拓夢が送ってきた写真を見つめる。

もう、これ以上の苦しみや悲しみを味わいたくない。

癌になって亡くなった祖母が、私にこう言ったのを思い出した。


「凛ちゃん、お金があってもなくても、死んでしまうのが癌なんだよ」


中学三年生だった私は、祖母に奇跡はあるんだよって何度も話した。でも、祖母は諦めていた。見つかった時には、ステージ4で手術も出来なかったから…。そして、病院に顔を見せる私にいつもさっきの言葉を言った。そして、時々こうも言った。


「この世界に平等な死に方があるなら、婆ちゃんは癌だと思う。癌だけは、お金があってもなくても、美人でも不細工でも、若くても年老いてても…。平等に死ぬんだよ」


助かる命も勿論存在する。だから、私は祖母にそんな話を繰り返した。TVに出てる人だって治ったよ!blogを書いてるこの人も治ったんだよ。だけど、祖母は一度も首を縦には振らなかった。まるで、自分の体の終わりは決めてきたみたいな言い方ばかりを繰り返すだけだった。

私は、祖母が大好きだった。祖母がくれる黄金糖やバターの飴や鈴カステラ。そして、私の頬に当ててくれるゴツゴツしてふしが太くなった指。全てが大好きで!大切だった。だから、もっと生きていて欲しかった。


凛ちゃん、凛ちゃんとあの優しい声でいつまでも呼んでいて欲しかった。


「お祖母ちゃん、私。赤ちゃんも産めない人間だったみたい」


私は、祖母を思い出して泣いていた。


泣いて、泣いて、泣いて、泣き続けていた。


【凛ちゃん】


何かが聞こえた気がしてハッとした。


スマホを見ると夜中の3時過ぎだった。


「寝ちゃったんだ。歯磨きしなきゃ!」


私は、のそりと立ち上がって歩き出す階段を降りていく。

胸の中に暖かいものが広がるような幸せななにかを見ていた気がするけれど…。思い出せなかった。

もうすぐ、お祖母ちゃんの命日だから行こうかなー。洗面所にやってきて、歯磨きをしながらぼんやりと鏡を見つめていた。

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