いい匂いだね

龍ちゃんは、鼻歌を歌いながらもどってきた。


「凛、大丈夫?」


「あっ、うん」


「火傷した?」


何故か、龍ちゃんに右手を握りしめられる。


「してないよ」


私は、手を引っ込めた。


「それなら、よかった。二階で寝るんだろ?」


「うん」


「ご飯は、明日も食べてくれる?」


龍ちゃんは、キラキラした笑顔を向けて笑ってくる。


そのキラキラが私には重い。


「明日も食べよう」


龍ちゃんと仲直りしたい。だって、私。気づいたんだよ!


龍ちゃんを選んだんだよ。


「よかった!ビール飲む?」


「あっ、うん」


龍ちゃんは、嬉しそうに笑ってビールを持って行った。私は、シチューをお玉ですくってスープカップに注いだ。


「持ってくよ」


今日の龍ちゃんは、よく動く。シチューをトレーに乗せて、カトラリーセットも乗せて持っていく。私は、鍋の火を止めてからダイニングテーブルに行く。


「凛、早く食べよう」


「うん」


龍ちゃんに急かされるように椅子に座る。


『いただきます』


私と龍ちゃんは、向い合わせで、ご飯を食べ始める。


「お寿司、先に食べなきゃなー」


龍ちゃんは、そう言ってお寿司を食べる。


「龍ちゃん、お母さんとは…」


私の言葉に龍ちゃんは、私を見つめる。


「母さんはね!凛の味方だから」


「どういう意味?」


「どんな事があっても、凛の味方だから」


龍ちゃんは、そう言ってビールを飲んだ。


「よくわからないかな…」


私は、眉を寄せてそう言った。


「いつか、わかるよ!きっと、いつか。俺か母さんが話すよ」


龍ちゃんは、そう言ってお寿司を口に運んだ。私は、そんな龍ちゃんの姿を見つめていた。


「あのさ、暫くは家にいるんだろ?」


「うん」


「それは、よかったよ」


「ごめんね。私、自分勝手だったよね」


私の言葉に、龍ちゃんは大きく首を横に振った。


「許してくれるの?」


私は、龍ちゃんにそう尋ねていた。


「許すか…。少し違うかな?」


龍ちゃんは、そう言って、またビールを口に運んだ。


「どういう事?」


「何だろう。許すとかそんなんじゃないんだ。今、言えるのは、俺は凛が帰ってきたのが嬉しいだけ」


そう言って、ニコニコしながらお寿司を食べている。さっきから、龍ちゃんは、ずっと嬉しそうだ。


私が、帰ってきたのが嬉しいだなんて…。やっぱり、龍ちゃんは優しすぎるんだよ!


優しすぎるから、私に利用されちゃうんだよ。だから、私、拓夢と過ごしちゃうんだよ。


「シチューうまいな!このパンも…」


いつの間にか龍ちゃんは、お寿司を食べ終わってシチューとパンを食べていた。


「よかった」


「めちゃくちゃうまいよ!凛の味だ。ホッとする」


そう言って、夢中でシチューを食べている。龍ちゃんが、喜んでくれて嬉しいのに…。

幸せなのに…。


どうして、涙が出るんだろう?


私は、涙を手で必死で拭った。


だけど、止まってくれない。

言うことを聞いてくれない。


何で、こんなに涙が止まらないのかな…。


罪悪感しかないよね?


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