改札を抜けた私達…

私と理沙ちゃんは、切符を買った。そこにいなかったらと思うと怖くて、二人共、振り向かなかった。


改札を抜けた瞬間。ホッとしたのか、涙が流れてきた。


「凛ちゃん、大丈夫?」


「目にゴミがはいっちゃって」


私は、そう言いながら歩く。


「危ないよ」


滲んだ視界のせいで、階段から落ちそうになったのを理沙ちゃんが助けてくれた。


「ごめんね」


「ううん」


うまく足に力が入らないのを感じる。

拓夢と本当に終わってしまったんだ。


「拓夢の家の駅で、パン買って帰らなきゃ!」


私は、理沙ちゃんに笑ってみせる。


「凛ちゃん、うまく笑えてないよ!口角あげなきゃ」


理沙ちゃんは、そう言って私の両頬を引き上げるように触る。

笑おうとして、涙が溢れ《こぼれ》落ちる。


私のなかを、ちゃんと星村拓夢が侵食してきていたのを感じる。


「凛ちゃん、大丈夫だよ!」


理沙ちゃんは、私の涙を一生懸命拭ってくれる。


「ありがとう」


うまく笑えなくても、私は笑った。


ガタンゴトン、電車がホームに入ってくる。これに、乗ればあっという間に家に帰れる。


「行こう」


私は、理沙ちゃんの手を引いて電車に乗った。


「座れるね」


空いてる席に、二人で座る。まだ、混んでいない。


プシュー。扉が閉まって、動き出した。


「理沙も優太と結婚したいなー」


理沙ちゃんは、左手の薬指の指輪を見つめながら言った。


「出来るよ!大丈夫」


私の言葉に、理沙ちゃんは「どうかな?」って笑った。


「大丈夫だよ!二人は、凄くお似合いだった」


「そんなの、凛ちゃんとたくむんだって同じだよ!これからは、ほっしーにしとこう」


そう言って、理沙ちゃんはニコニコ笑ってる。そうだよね!拓夢なんて、安易に口に出しちゃ駄目だよね。


「私は、結婚してるから…」


理沙ちゃんは、その言葉に私を見つめて言ってくる。


「国によって違うよねー。日本も、そうなればいいのにね!」


「そうなっても、私は無理だよね」


理沙ちゃんは、私の言葉に笑った。


「わからないでしょ?どっかの国では、女性が男性と沢山暮らしてるかもしれないじゃん」


「理沙ちゃん、それはどうかな?」


ちゃんと私も笑えた気がした。


「凛ちゃんは、やっぱり笑顔が似合うよ!ほっしーも泣いてる凛ちゃんより、笑ってる凛ちゃんの方が絶対好きだから」


「ありがとう」


理沙ちゃんの言葉に私は、拓夢の笑顔を思い出していた。これから先、変わる事は抱き合えるかどうかだけで…。それ以外は、何も変わらないよね。そう思おうとする度に、胸が締め付けられるのを感じていた。


「理沙もパン買って帰る」


理沙ちゃんの言葉に、ハッとした顔を向けて見つめる。


「通りすぎちゃうよ!最寄り駅から」


「いいの、いいの!食べたいから」


理沙ちゃんは、そう言って私にニコニコと笑いかけてくれていた。

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