凛が好きで好きで仕方ない
「覚えたてと同じだよ」
俺は、立ち上がろうとする凛を引き寄せる。
「駄目…ご飯作りたい」
「凛、愛してる」
俺は、凛を抱き締める。「愛してる」を繰り返す。それ以外の言葉を俺は見つける事が出来ないでいる。
「ありがとう、拓夢」
「明日は、一日イチャイチャしてよう」
「いいよ」
凛の優しい声が、俺の鼓膜を震わせる。その感覚が、好きだ。俺は、凛を離した。
「ご飯作るね」
「うん」
凛は、ズボンを履いて部屋を出て行った。凛と過ごせるのは、明日一日が最後。撮影が終わったら、凛は真っ直ぐ帰る。俺も、凛を追いかけてなどいけない。
「デビューなんかしなくていいや」
あんなに切望していた願いが変わったのを感じる。
「俺、凛とこの関係続けたかった」
凛が、俺の絶望を埋めた。だから、俺…。
「凛を手放したくない」
心の底から、何度も何度も何度も湧いてくる独占欲…。消そうとすればする程に、その色は濃さを増す気がした。俺は、立ち上がってシャツを着てズボンを履いた。ペタペタとキッチンに向かう。
キッチンでは、凛が楽しそうに料理を作っている。それを見つめながら、俺は凛の一番目には慣れない事を感じていた。
「まだ、かかるから待ってね」
凛が、俺に気づいて声をかけてきた。
「うん。水、飲んでいい?」
「うん」
俺は、蛇口を捻って水を出した。
「拓夢」
「何?」
「明日、どこ行く?」
「俺ね、凛に服を買ってあげたいんだ!安い所じゃなくて…。長く着れる服をプレゼントしたいんだ」
「別に、いいのに…」
「よくない!コートとかは?お気に入りのがあったりする?」
「うん。ある」
「じゃあ、何がいいか考えててよ」
「わかった」
「明日は、俺の服着ればいいよ」
ニコニコ笑う俺を凛は、見つめる。
「この先、拓夢は忙しくなって…。私なんかあっという間に忘れちゃうでしょ?」
「だから、忘れない」
「忘れていいんだよ、拓夢。とどまる必要何てないんだよ。だって、時間は流れていくのが当たり前でしょ?」
凛は、そう言って豚肉を揚げている。俺は、それを見つめる。
時間は、流れてく…。
残酷な程、早く…。
「拓夢、泣いてるの?」
凛は、キッチンペーパーをちぎって、俺に渡してくれる。
「ごめん。時間は、残酷だなって思ったら泣けてきた」
「そうだよね。私や拓夢の心(ここ)の傷は消えないのに、歳はとっていくんだもんね。心(ここ)は、あの頃を思い出して苦しんだままなのにね。時間って、残酷だよね。心(ここ)を置き去りにしたまま進んでいくから…」
そう言って、凛は胸に手を当てている。俺は、その言葉に頷いただけだった。いくら時間が流れても消えない傷を抱えたままだ。大人になるだけで、消えてくって信じてた。でも、違った…。ただ、俺も凛も消えたフリをしてただけに過ぎなかった。
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