越えられない、存在

俺は、気にしないで聞いてる。


「それで…。あっ、何かごめんね。こんな話、聞きたくないよね」


凛は、俺の顔を見つめて苦笑いを浮かべる。


「話して!龍ちゃんの話。聞きたいって言っただろ?」


龍ちゃんを越える事は、不可能なのがわかる。映画で、不倫してた人が普通に帰宅して行くのを見た事がある。あの時は、何で帰るんだよって思ったけど…。今なら、わかる。初めから、勝てる事など出来ない勝負に挑もうとしてたって事…。木に刻みこまれた年輪のように、夫婦の築き上げた時間を新参者の俺が消せるはずないんだ。たまに、不倫相手を選ぶ展開も用意されてはいるが…。よっぽど、相手がヤバい奴パターンか政略結婚か完全に仮面夫婦。そのパターン以外に、不倫相手が敵う事はない。


「拓夢、ボッーとしてる?」


凛に言われて、俺は凛を見つめる。


「ごめん。龍ちゃんは、天然って事でいいのかな?」


俺の言葉に凛は笑った。


「どうかな?ただ、私との事に関しては比較的空気を読まない事があるって感じなのかなー。それを優しさだって思うか、空気が読めないって思うかは相手次第でしょ?」


凛が、龍ちゃんの話をする時、本当に楽しそうだ。不倫相手が、勝てるパターンではない。


「凛は、どっちだと思ったの?」


「あの時は、空気読んでって怒ったよ!昨日、喧嘩したのに何で来るのよーって」


「旦那さんは、何て?」


「デートの約束をしてたし、映画が見たかったから仕方ないよねって笑ってた」


「ハハハ、そっか!やっぱり、天然じゃないか?」


「違うよー。多分、わざとだったんだよ!絶対、わざと」


凛は、そう言いながら笑ってる。俺は、やっぱり凛と旦那さんを元通りにしてあげたい。


『ごちそうさまでした』


話ながら、食べ進めて、俺達は食べ終わった。


「うまかったよー。凛が家にいるだけで、凄い嬉しかった」


「よかった。そう言ってくれたら、嬉しい」


凛は、隣の椅子にあるトレーを机の上に置いて食器を片付け始める。


「あのさ、凛」


「何?」


「ここにいる間は、俺との時間を大切にして欲しい」


ワガママなのは、わかってる。選ばれないのなんて、百も承知だ。それでも、ここにいる間は俺だけを見て欲しい。


「お風呂入ろう」


凛は、そう言って笑った。


「準備してくるよ!」


「洗ってるから、スイッチだけでいいよ」


凛は、そう言って立ち上がってトレーを持って行く。


「先に、お皿洗おうか」


俺は、カトラリーを入れている容器を持ってついていく。


「うん」


凛は、シンクに食器を置いてる。


「これも、買ったの?」


「うん。あると便利かなーって」


俺は、カトラリーを入れていた容器を凛に見せながら話していた。


「確かに、おしゃれだし。いいね」


凛は、ニコニコ笑いながらスポンジに洗剤を垂らしている。

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