おかしな事

コンコンー


「はい」


「失礼します」


頼んでいた飲み物は、今頃やってきた。


「ありがとう」


「失礼しました」


店員さんは、オレンジジュースを二つ置いていなくなった。


「変だよね」


店員さんがいなくなって理沙ちゃんは、そう言った。


「変?」


「うん。まるで、盗聴でもしてるのかってぐらい知ってるって言うか。凛ちゃんの後、つけてたのかな?」


「気づかなかった」


「会えばきっと何もかもわかるから、大丈夫だよ」


理沙ちゃんは、私なんかよりしっかりしている。初めて会った時のギャルっぽい雰囲気とは違っていた。今は、私よりもしっかりした大人。


「あのね、凛ちゃん」


理沙ちゃんは、話しづらいようだった。


「どうしたの?」


「優太の母親とたくむんが寝てたって聞いた?」


「ううん、聞いてない」


私の言葉に理沙ちゃんは、「よかったー」と小さく呟いた。


「実は、掲示板でそう言うのが噂に流れてるって聞いたの!だから、凛ちゃんの耳にも届いてるかなーって思って」


「そうなんだね」


本当は、全てをわかっているけれど、私は嘘をついていた。


「そうなの!それに関しては、優太も私に何も言ってくれないから!誰かの嘘だと思ったんだけどさー。ほら、こないだ!智君が証拠があるとか言ってきてさー。優太には、話せなかったんだけどね…。智君、奥さんが入院しちゃってるんだって!で、お金が必要なのかなーって、だから

そんな嘘ついたのかなーって」


証拠って、何?私は、きっと眉間に皺を寄せていた。


「凛ちゃん、顔怖いって」


「あっ、ごめんね」


「いいよ、いいよ。多分、証拠ってのも智君の嘘だと思ってるから」


「どうして?」


「智君、SNOWROSEのライブ見たくなかったんだって」


「そうなんだね」


「これも、優太に言えなかったんだけど…。惨めだったんだって。あのステージでキラキラした皆を見てたら、凄く情けなかったって」


「何かわかる気がする」


「凛ちゃんも?どうして?」


私は、オレンジジュースをゴクリと飲んで理沙ちゃんを見つめて話す。


「遠くに行った気がしたから…。拓夢が、遠くに…」


私の言葉に理沙ちゃんは、頷いていた。


「何かわかるよ。理沙も優太にそう思ったから」


「そんな事ないのにね」


「うん。でも、そう思うよね…。客席とステージってそんな距離感ない?」


「あるね」


「だよねー。何か、手の届かない場所に行っちゃったって感覚がするよね」


「理沙ちゃんもそうだったんだね。私も、そう思ったの」


「大丈夫だよ!たくむんは、凛ちゃんを捨てたりなんかしないから」


「そう言うなら、まっつんさんだって」


理沙ちゃんの笑顔が曇る。「優太の重荷になりたくない」ポツリと呟いた言葉に何かよくない事がおきてるのを感じていた。


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