パスタ屋さん

理沙ちゃんは、スマホのアプリに道案内をさせている。「次、曲がります」とか話してくれるまま私と理沙ちゃんは歩いて行く。


「SNOWROSEは、この街に来る頻度が増えるんだよ」


「そうだよね」


拓夢は、こっちに染まっちゃうんだよね。


「でも、まだ売れてないからね!売れたら、こっちに住むのかなー」


「理沙ちゃんは、ついてくるんでしょ?」


「優太の迷惑にならないならね」


「なるわけないでしょ!」


「そうかな?私は、この街じゃ田舎くさいよ」


「そんなの関係ない。理沙ちゃんは、まっつんさんの彼女なんだから」


理沙ちゃんは、私を見つめて笑う。


「売れるとね!華やかな人が欲しくなるんだよー!街も人も…」


「寂しい事言わないでよ!私とは違うんだよ。理沙ちゃんは…」


「どうかな?」


「違うに決まってるよ!私は、不倫だから…」


声が小さくなっていくのを感じていた。


「凛ちゃん、悲しそうな顔しないでよ!食べたら、電話するから」


そう言って、理沙ちゃんは私の頭をポンポンとしてくれる。


忘れていた。あのメモの存在を…。


「お腹すいちゃったから、先に食べていいかな?」


「勿論だよ!私もお腹すいちゃった」


嘘をついていた、食欲なんてなかった。


「小さいの食べたら?せっかくだから」


「ごめんね」


「ううん」


理沙ちゃんは、名前を書いていた。人気なだけあって、たくさんの人が並んでいた。私達も列に並ぶ。パスタの提供が早いのか、意外に早く列は進んでいく。


「お待たせしました」


私達の順番がやってきた。


「はい」


「お名前は、こちらでしょうか?」


「はい」


「では、どうぞ」


プライバシーに配慮されているのか、名前は呼ばれなかった。


私と理沙ちゃんは、店内に入った。


「ご注文は、お決まりでしょうか?」


「これ、2つで1つは小で」


「かしこまりました。チーズたっぷりカルボナーラパスタが2つ、1つは小でよろしいですか?」


「はい」


「かしこまりました。少々お待ちください」


店員さんは、そう言っていなくなった。


「カルボナーラが有名なんだって」


「へぇー」


あちこちにいる女の人達は、「映える」と言いながら写真をパシャパシャ撮っている。


「凛ちゃんのご飯、今度食べさせて」


「いいよ!今度、家(うち)においでよ」


「いいの?」


「勿論だよ」


理沙ちゃんは、笑いながら遠い目をする。


「凛ちゃん」


「何?」


「あー、後で話す!人たくさんいるし」


その言葉に、話したいのはSNOWROSEの話なのがわかった。


「わかった」


私は、そう言って理沙ちゃんに笑った。


「お待たせしました」


店員さんが、パスタを運んできてくれる。


「小の方?」


「はい」


「どうぞ」


「ありがとうございます」


「こちらになります。ご注文以上で、よろしかったでしょうか?」


「はい」


「かしこまりました。失礼します」


店員さんは、お辞儀をしていなくなった。テーブルに置かれたパスタは、確かに映えるって言葉がよく似合うものだった。


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