龍ちゃんが感じてる事

「ビールとってこよ!凛も飲む?」


「うん」


龍ちゃんは、立ち上がってキッチンに向かった。ビールグラスと500mlの缶を持ってやってくる。


「はい」


「ありがとう」


私のグラスにビールを注いでくれる。


「乾杯」


「乾杯」


カチャリとグラスを合わせてビールを飲んだ。


「なあ、凛」


「何?」


「本当は、もうどんだけやったって妊娠しないんだろ?」


その言葉に私は、何も答えられずに餃子を口に運んだ。


「凛の事、抱いてるからわかるんだ。薬飲んでて排卵時期って言われた時の体温の感じとか、濡れ方とか、感じ方とか…。もう、そういうの凛から感じないなーって。かといって、今が駄目とかじゃないよ!何か、そうだって言われてしてた時と何か違うなーって。わかんないくせに偉そうだよな」


龍ちゃんは、そう言って苦笑いを浮かべてビールを飲んでる。龍ちゃんの言いたい事の90%はわかる。要するに、薬を飲んで排卵がきそうだった時期と今の私の体は違うものだと言いたいのだ。それは、私にも何となくわかる。妊娠をしない気がする。出来るのが想像できないとかそういうのじゃなくて…。しないのを感じる。自分の体は、命を宿す価値がないのを感じる。


「泣かせるつもりじゃなかった。ごめんな」


龍ちゃんは、私の涙を拭ってくれる。私は、餃子を無理矢理ビールで流し込んだ。


「私の体は、命を宿す価値がないんだって」


「誰がそんな事言ったんだよ」


「私」


「凛、そんなに自分を否定するなよ」


龍ちゃんは、そう言って私を抱き締めてくれる。


「私だって、赤ちゃん欲しかったんだよ!凄く望んでたんだよ。みんなみたいに、赤ちゃん欲しかったんだよ」


どんどん声が小さくなるのを感じる。だけど、生きていたいの。私…。命と引き換えに子供を産むとか考えられないの。そんな事を口に出したら、余計に妊娠なんて出来ないよね。


「凛、もう苦しむのはやめよう。俺、凛が一番大切だよ!凛より大切なものはないって思ってる」


「私も龍ちゃんが、大切だよ」


「俺には、負けるだろ?」


「かもね」


人生は、どうなるかわからない。だからこそ、選択肢を沢山持ってる方がよかったのかもしれない。


「もう、泣くなよ!子供がいない人生もきっと素敵なはずだから」


「しんが描く作品みたいに?」


「うーん。そうだな!そう信じたい」


「そうだね」


「じゃあ、明日!映画見に行く為に早く寝よ」


「うん、私もこれ食べたら寝るから」


「じゃあ、俺は、先に寝るわ」


「うん」


龍ちゃんは、ビールをグッと飲み干してから立ち上がった。私は、龍ちゃんがいなくなる音を聞きながらご飯を食べていた。

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