知らない美沙…

「星村さん」


松永さんは、俺の名前を強く呼んでくる。


「はい」


「もしも、大切な人がいるなら気をつけて」


「どういう意味ですか?」


「彼女は、何でもするよ!星村さんが、付き合っていた時とは違う人間だって思った方がいい」


「何でもって?」


松永さんは、煙草を吸っていいか?と見せてくる。俺達は、どうぞと手を灰皿に向けた。松永さんは、首をコクリと動かして煙草に火をつけた。


「俺は、同期の伊藤が美紗のスパイだった。フー」


「スパイですか?」


「ああ!飲みに行って、婚約者の悪口を言ったりしてるのを録音されたんだ」


「それを婚約者さんに聞かされたんですね」


「うん!最初は、小さな喧嘩だった。何で、こんな事言ってるのよって!でもね、火種は小さくて充分なんだ。婚約者に疑念を抱かせておくだけでよかった。フー」


松永さんは、煙草の火を消した。


「それから、美紗は彼女の家のポストに俺の寝顔の写真を投函した。彼女は、これは何?と言ってきた。俺は、適当に嘘をついて誤魔化した」


俺達、三人は松永さんの話を食い入るように聞いていた。


「そしたら、次はやってる最中の音声動画が送られてきた。でも、まだ決定的じゃない。合成だろ?そう言えば、誤魔化せる」


そう言って、松永さんはまた煙草に火をつける。その手が、小刻みに震えだした。


「そして、美紗は彼女に接触した。私の友達を騙してるから、別れて欲しいって切り出して…。彼女は、俺に怒った。騙してるんだから別れろと私が大事なら別れろと言われた。だから、俺は、美紗に別れを告げた」


そう言うと松永さんは、煙草の火を消した。


「美紗は、それを狙っていた。俺が、別れを告げた5日後彼女の元に行った」


そして、松永さんはスマホを取り出して何かを再生し始める。


「これは、彼女が証拠の為にスマホで録音した音声だよ」


その声に、俺達三人は固まっていた。もう、その音声は俺の知ってる美紗ではなかった。


「星村さん、悪い事は言わない。大切な人がいるなら、守った方がいい。美紗は、何より自分のプライドが傷つく事を許さない」


「嘘だったんですよね!」


「そうだよ!でも、彼女は写真を偽造したりする仲間を持ってるんだ。そして、何より自分と同じ人間を見つけるのがうまいんだ」


その言葉に、俺はハッとした顔をした。


「ごめん、俺。行かなきゃ!」


「拓夢、今日は無理だろ?違うのか?」


まっつんは、誰に会いに行くか気づいたようだった。


「でも、今の話が本当なら…」


「それでも、拓夢が行く方が不自然だろ?」


「そ、そうだよな」


俺の慌てる様子を見て、松永さんはこう言った。


「星村さん、美紗はその人を追い詰めます。だから、ちゃんと守ってあげて下さい。俺は、出来なかったから」


そう言って、涙を拭っていた。

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