秘密と苦しみ

俺は、まっつんのお母さんに嫌な思いをさせないように、首を横に振った。


「今日の事は、忘れましょう!事故だと思って」


「は、はい」


忘れられるはずなかった。


「いい子ね!」


そう言って、頭を優しく撫でられる。


「どうも」


「じゃあ、私。帰るね」


そう言って、まっつんの母親は帰って行った。俺は、身体中に刻まれたまっつんの母親の痕跡を抱えたままだった。

拭いされないまま、夜、練習でまっつんに会った。


「拓夢、昨日ごめんな」


肩を叩かれて、ビクッとした。


「どうした?」


「あー、ごめん」


「あいつ何かほっといたらよかったんだよ」


「女の人だから」


「関係ねーよ!あいつは、誰かれ構わず寝るような女だから!心配なんかしなくていいよ」


「お母さん、苦しんでたよ」


「あー、あんなパフォーマンスほっときゃいいって」


「そうは、見えなかったけど」


俺の言葉にまっつんは、俺を見つめる。


「あの女とセックスしたか?」


「はっ?はぁ?」


「なわけねーよな!あいつと拓夢がやってたら俺は友達やめてるわ!気持ち悪いからさー」


気持ち悪い、友達やめてる。その言葉が、グサグサと胸を刺した。


「ごめん、トイレ」


俺は、走ってトイレに行った。


ヤバい!バレちゃ駄目だ!絶対に、バレちゃ駄目だ。足が、ガタガタ震えてくる。吐き気が込み上げてくる。何で、しちゃったんだよ!馬鹿か俺…。


まっつんの母親の拒絶しないで欲しいって目に、吸い込まれるようにそうなってた。思い出すな!思い出すな!


コンコンー


「はい」


「拓夢、大丈夫か?腹痛いの?」


声をかけてきたのは、智だった。


「ちょっと調子悪い」


「そっか、無理すんなよ」


誰にも言えなかった。ずっと、言えなくて…。苦しくて、死にそうで。あの事を上書き出来る人はいなかった。明日花ちゃんも、無理だった。


なのに…。


「拓夢」


凛が初めて忘れさせてくれた。


気づくと頭を抱えていた。俺は、スマホを取って凛のメッセージを指でなぞる。


「だから、俺。凛に執着してる」


俺の話聞いたら、軽蔑するよな!楽になりたい。秘密を抱えて歩いて行くのは、しんどくて…。辛くて…。でも、俺が荷物を下ろせば凛に背負わすんだ。凛は、誰にも言えないまま、俺の荷物を背負って一生歩く。そう考えたら、言えない。

気づいたら、後、三十分で晩御飯が終わる時間だった。


「あの」


平田さんの母親に声をかける。


「イッター。ごめん、時間?」


「はい」


「行こうか」


そう言って、平田さんの母親は立ち上がった。さっきのキスも墓場まで…。俺は、どれだけ抱えなきゃならないんだ。


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