やっと…

「凛」

やっと、その手を掴まえれた。


「離して」凛の言葉にイライラする。「何で、逃げんの?」聞いても、こっちを見てくれない。答えてくれない。


「凛、話ししよう」そう言ったのに、首を横に振られる。「何で?」って聞いたら「嫌です」と言われた。俺は、その言葉に引き下がりたくなかった。凛は、俺の顔を見る。抱き合う事が怖い行為だった事、嫌いにさせないでと言われてしまった。しゅんが、現れて俺を凛から離した。複雑だった。わかっていたのに、俺は凛を傷つけた。

傘を返せとしゅんに言われたけど、頭の中にうまく入ってこなかった。「拓夢君」明日花ちゃんの声が聞こえて俺は階段を駆け上がった。


「はぁ、はぁ、はぁ」


「鍵開いてたよ」


「ごめん、しゅんが来てて」


俺は、明日花ちゃんを家に連れて行く。


「何か用事だったの?」


「うん!バンドの事で」


「そっかぁ!」


玄関で、虹色の傘が目に入った。絶対、渡さない。俺は、傘を見つめそう思った。


「もうすぐ、帰るね」


「大丈夫?雅俊」


「うん、お酒抜けてるから」


「また、何かあったらいつでも来ていいから」


明日花ちゃんは、俺に抱きついてきた。


「拓夢君、好きな人はもういいの?」


「どうかな?わからない」


「もし、次、雅俊に殴られたら…。私、暫く泊めて欲しいの。だけど、好きな人がいるなら」


「大丈夫!もし、そうなったらおいで」


俺は、明日花ちゃんの背中に手を回して抱き締める。


「ありがとう、拓夢君。私、そろそろ行くね」


「送る?」


「ううん、ここでいい」


「気をつけて」


「ありがとう」


明日花ちゃんは、ドアを開けて出て行った。俺は、それを見届けて鍵を閉めてキッチンに向かう。ダイニングのスマホを取って、ベッドに寝転がった。


電話帳から、しゅんを見つけて発信した。


プルルル、プルルル、プルルル、プルルル…。


コール音が空しく響く。拒否された気がする。それでも、何度も何度もかける。


「お掛けになった番号は…」電源を切られたか、電源が落ちたかだ…。


「くそっ」


俺は、ベッドにスマホを叩きつける。凛にかける勇気がない。

あの目や、涙を見たら…。今の俺が凛を傷つける存在なのがわかるからかけられなかった。


俺は、泣きながらベッドに横になった。どれくらいそうしてたかな?


ピンポーン


インターホンの音で、目が覚めた。俺は、インターホンを取りに行く。


「はい」


「星村さん、管理人です」


「あー、はい」


俺は、玄関を開けに行く。


「こちら、修理しないといけませんよね」


「はい、お願いします」


「見せてもらってもいいですか?」


「はい」


そう言って、管理人さんは、ポストを見ている。

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