俺は、凛から離れた。


「帰ろうか?」


「うん」


凛は、ゆっくり立ち上がって、傘を拾って閉じてる。


「ヤベー!足が痺れた」


「大丈夫?」


「大丈夫、大丈夫」


俺が、足を擦ろうとしたら凛も擦ってくれる。優しい人。だから、きっと色んな人が勘違いするんだろうな…。


「待ってな」


「うん、大丈夫だよ」


「凛、優しいな」


「優しくないよ」


「嫌、優しい…。だから、勘違いするんだ」俺は、小さい声で呟いた。


「なんか、言った?」


「ううん、何も言ってない!おさまった!ありがとう」


「よかった」


俺は、ゆっくり立ち上がった。


「びしょ濡れだよ」


「凛もな!ほら」


俺は、凛にスーツの上着を肩にかけた。凛のワンピースが濡れて所々透けていた。


「ありがとう!服着替えてから、ご飯食べに行くのがいいよね」


凛は、そう言って俺のスーツの上着を着ていた。恥ずかしいのを隠しながら俺は凛に話す。


「それも、そうだな」


俺は、鞄を拾って凛と並んで歩き出す。


「なあ!凛」


「何?」


「あの子と大丈夫だった?」


「うん!何とかね」


「浮かない顔してるけど!さよならは、言えなかったのか?」


「凛君、お母さんに産まなきゃよかったって言われたりしてね。お母さんに首絞められた私を庇ったりしたから…。よけいに、怒らせちゃってね」


「あの子も色々あるんだな!」


「うん」


「ってか、首絞められたの大丈夫?痛みとかはない?」


「大丈夫だよ!凛君が助けてくれたから」


「ごめんな!美沙を追いかけなかったら、凛を助けれてた」


俺は、凛の手を握りしめる。


「全然、気にしないで!拓夢のせいじゃないよ!凛君のお母さんが、出てくるかもっていうのは何となく予想ついてたから」


「凛が、同じ親ならそうした?」


「するよ!16歳の息子が、39歳の女と歩いてたら包丁振り回して追いかけてる」


「怖くないか?その絵は、さすがに…。想像しちゃったから」


「でも、それぐらい重罪だよ!未成年だよ!可愛い息子だよ」


俺は、凛の言葉と態度に笑ってしまう。


「プッ…。凛、怖いから!その手の動きとか!」


「ごめん、興奮しちゃった」


「いや、いいけどさ!あの子の母親もそうだって凛はずっと思ってたんだな!」


「そうだよ」


凛は、俺の手を強く握り返してくる。


「凛」


「どうしたの?」


「今日も一緒にいたい」


「どういう事?」


「家に帰らないで欲しい」


「また、ホテルって事?」


「嫌、今日は家で大丈夫だから」


凛は、何故か「うん」とは言ってくれなくて眉毛を潜めて何かを考えてる。


「凛の家の近所の目とかもあるから、無理にとは言わないから!来れたら来てよ!待ってるから」


「うん」


俺と凛は、駅前にやってきた。


「じゃあ、着替えたら!」


「どこに行けばいい?」


「俺の家の駅でもいいかな?」


「わかった」


俺は、腕時計を見つめる。


「18時半でもいい?一時間半後だけど」


「うん、わかった!後、ありがとう」


そう言って、凛は笑って上着を渡してくれた。まだ、暑い時期だから凛のワンピースは駅につくまでには乾いていた。

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