片付け…
暫くして、私は部屋に戻った。キッチンで、お皿を洗う。今日から、龍ちゃんがいないと思うとワクワクや嬉しさなんかより、虚しさや寂しさが襲ってくる。キッチンから、見える景色が色褪せてる感じがした。
お皿を洗い終わって、私は寝室に行く。
充電されたスマホを手に取って、凛君にメッセージを送っておいた。ちゃんと話し合って、凛君の言葉を聞いて終わらせてあげよう。そう思えたから…。私は、寝室にあるドレッサーに近づいた。二つ目の引き出しを開ける。
「あった!」
一枚だけ、避妊具が入ってるのを知っていた。龍ちゃんは、多分知らない。これは、私と龍ちゃんが妊活をする前に使っていたやつだった。最後の一枚をなんとなく残していた。いつか、使わなきゃいけない場面を想像してたんだと思う。それは、不倫じゃなくて赤ちゃんが出来た時って話し…。でも、そのいつかは全くやって来なかった。これとも、お別れしよう!別のいつかがやって来て、使えるからよかったじゃない。私は、そう思いながら、それをドレッサーの上に置いた。
私は、ベッドに寝転がった。まだ、時間が早い。
近所の人は、私を見てどう思うのだろうか?不倫相手に会いに行って、避妊具まで持って行く。そんな事が、バレたら確実に軽蔑されて「皆月さんの奥さん、不倫してたんですって」何て深刻そうな顔をして噂をたてられるのがわかる。
それでも、私には拓夢が必要。拓夢との関係がなかったら、あの日私は崩壊していたから…。世の中とかどうでもいい。
もしも、龍ちゃんにバレちゃって終わりになっちゃったら…。それだけが、どうしょうもなく悲しい。もう少ししたら、用意しよう。
時刻は、九時を回った所だった。私は、左手の人差し指一本で唇を撫でる。
「赤ちゃんを考えなくてよかったなら、凄く幸せなのに…」
その言葉と共に涙が流れてくる。誰かに私をわかって欲しかった。女性として、凛は存在していていいんだよって言って欲しかった。だから、私…。
「拓夢に抱かれて、ごめんね。龍ちゃん」
まだ、女としての価値があるって知りたかったのかも知れない。例え、それが間違った方法だったとしても…。
龍ちゃんじゃない人も私を欲してくれるって知りたかったんだと思う。
だって、若さも子供もいない私が価値を見つけようとしたら、それしかなかったから…。
それしか思い付かなかったから…。
私は、ベッドから起き上がって服を着替える。ふわふわしたロングスカートのポケットに避妊具を入れた。
「さよなら、かつての私」
そう言ってから、私は軽くお化粧をする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます